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米国知的財産権日記

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相変わらず大人気のIPRですけれども、実はIPRに関して最高裁まで上訴されている問題がありました。それは①IPRにおいて請求項の解釈基準として適用されている「Broadest Reasonable Interpretation」(BRI)は適切か。裁判所における請求項解釈基準と統一すべきではないか、②IPRを実施するか否か、というPTABによる決定は現在控訴できないが、控訴できるようにすべきではないか、の2点でした。

今回、この2点が最高裁判決で明示されたのですが、原文をご覧になりたい方はこちらからどうぞ。結論としては、①IPRではこれまで通り、BRIを適用して特許の有効性を判断する、②IPRを実施するか否か、という決定は控訴できません、ということで、現状維持となりました。

IPR人気の理由の一つは①の「BRI」基準です。この基準のために特許が無効化されやすいんですね(=請求項の範囲が広いと先行技術も見つかりやすいので)。この基準の適正について疑義を呈した側は「審査中はこの基準であっても請求項を修正する機会があるから良いけれど、IPRでは請求項の修正が許されることは稀で、だとするとBRIを適用するのはアンフェアだ。」と。最高裁としては、「いやー、でもさー、特許庁の請求項解釈基準はもう100年ずっとBRIなんだし、それでいーじゃん。」と、まあ、そこまで軽くいいませんが、そんな感じです。加えて「請求項が広すぎる特許は公共の利益にならないし、そういう意味では不適切に範囲が広すぎる特許がPTABのプロセスで駆逐されることには意味がある」てな感じのことを言っています。

裁判所で特許の無効性を争う場合、ご存知の方も多いと思いますが、まずはマークマン・ヒアリングなる手続きで請求項解釈を行います。ここでは明細書等に照らして当業者であれば通常どのようにその請求項を解釈するか、といった基準で解釈され、必ずしもBroadest、「最広義」に解釈することにはなりません。

とりあえず、今回の最高裁判決でまだしばらくIPRの人気は続きそうです。
# by suziefjp | 2016-06-21 06:32 | 知的財産権

アリス判決その後 

米国特許を扱う方は皆さんご存知であろうアリス判決、正確には「Alice Corp. v. CLS Bank International」判決といいますが、これは2014年の最高裁判決です。この事件では「そもそも特許として保護され得る対象物って何なの?」というのが争われました。ある種のコンピュータープログラムに関する発明は米国特許法101条にいう特許として保護され得る発明に当たらなず、そうした発明の特許は無効、というようなことが最高裁によって明示されたものです。
アリス判決で問題になったのは決済リスクを軽減する金融取引に関するコンピュータープログラムでした。このプログラムが「抽象的概念」に過ぎず、特許として保護され得ない、と判断されたものです。この判決が出た直後、コンピューターソフトウェアに関する特許が取りにくくなるぞー、とか、たくさんのコンピュータープログラムに関する特許がこれから無効化されるぞー、とか大騒ぎになりまして、で、今もその余波は続いています。

実際にこの判決後、特許トロールがコンピュータープログラムに関する特許で訴訟を仕掛けたときに、被告が訴答を提出する前に「そもそも侵害主張された特許は特許法101条に該当する発明ではないのでこの特許は無効である、よってこの訴訟は取り下げられるべき」という取り下げ申し立てをするケースが増加しました。そして米国特許庁としても、何は特許保護の対象になり得て何はなり得ない、ということを明確にしないと審査官も出願人もみんな困っちゃうよね、ということでちょこちょこ「何は特許として保護され得るよ」という点についてのガイダンスを発行しています。

2016年5月4日付で、また最新の審査官向けガイダンスが出ました。タイトルはあえて日本語で言うと「特許事由適格性にもとづく拒絶の考え方と、そうした拒絶通知に対する出願人回答の評価方法」ってところでしょうか。ポイントとしては、特許事由適格性要件は、まず、出願にある発明が特許法101条で特許保護の対象とされる「process, machine, manufacture, composition of matter、もしくはその改善されたもの」に当たるか否か、を判断せよ、とのことです。抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物、はそれに当たらないのでダメですよ、と。で、101条にもとづく拒絶通知の発行にあたっては、出願のどの部分がそういう抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物に該当するのか、ちゃんと書きなさいよ、と。まずこれが第1ステップです。

で、第2ステップとして、出願にある「抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物」以外の要素を個別に、あるいは組み合わせて勘案しても、出願にある発明は抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物以上のものにはなり得ないかを判断せよ、とのことです。

なお、こうした判断をするにあたって、審査官がテキトーに決めてしまわないように「これまでに判例でどういったものが抽象的アイデアだと判断されたか、のまとめ表を作ってあるので、それを見ながら判断するように」と、ちゃんとガイドラインを設定しています。こういうのは便利なので、いつまでリンクが有効か、の不安はありますが、できるだけリンク貼っておきますね。これまでにも米国特許庁は何がprocess, machine, manufacture, composition of matterに該当するのか、の例も発表してますし、あと、特許アウトな抽象的アイデア例特許アウトな自然の産物例、も発表していますのでご興味ある方、実務に関連ある方はぜひご覧になってみてくださいね。

ちなみにDocket Navigatorという会社が出している2015年の年間統計の一つとして「特許侵害訴訟における101条にもとづく特許無効申立の成功率」データを出しているのですが、それによると、全国平均で成功率は56%だったそうです。2015年には特許侵害訴訟における101条ベースの無効申立が全国で200件ほどあったみたいですが、そのうち100件以上が成功、とな。訴えられる方からみたら悪くない数字かなー、と思います。
# by suziefjp | 2016-05-20 06:50 | 知的財産権
今日、最高裁がLachesディフェンスが特許侵害事件で許されるべきか、について決定をするぞ、という決定をしました。Lachesっていつも良い翻訳がなくて、そのまま「ラッチェス」と言ったりするのですけど、意味は「特許権者が被疑侵害を知りつつ、侵害に対してアクションを取るのがすごーく遅れたら損害賠償回収できませんよ」というものです。

で、なんで今これがすごく注目されてるか、といいますと、著作権法との整合性の問題です。最高裁判所が決定したPetrella事件では、最初の著作権侵害から18年たって侵害訴訟が起こされました。で、連邦地裁と控訴裁は「18年は遅すぎ!」ということで略式判決で訴訟裁判を取り下げました。これに対して最高裁は「いやいや、著作権法は507条で明確に『侵害から3年以内に裁判しなさい』と書いてるじゃないの。だから、提訴の日から遡って3年以内に発生した侵害行為についての損害賠償をLachesディフェンスで逃れようたって、そうはいかねえぜ!」と判示しました。すなわち、著作権侵害においてlachesディフェンスの適用は否定されたわけです。

さてこれとは別にある特許侵害事件があり、そこでは特許権者が最初に侵害催告をした後、被疑侵害者に「こうした先行技術に照らしてこの特許は無効だと思いますが」と言い返され、それから約7年経過してから特許侵害訴訟を提訴しました。被疑侵害者は特許法282条の防御の一つとしてlachesを主張し、提訴の日以前に発生した侵害に関する損害賠償は回収不可であることを主張し、連邦地裁はこれを認めました。これに対して特許権者は「特許法286条では提訴の日から6年超遡って損害賠償を回収することは不可、と明示している。著作権法における最高裁のPetrella判決を勘案すると、こうして法律で6年と明示されている以上、6年の損害賠償回収は許されるべきで、著作権法と同様にlachesによる防御は特許法でも許されるべきではない」と主張し、この問題について連邦巡回控訴裁判所が昨年秋に決定を下しました。

連邦巡回控訴裁判所は、特許法286条(損害賠償の回収を6年に限定)は282条(lachesを含む色々なディフェンス)とは相反するものではないし、特許侵害についてlachesディフェンスにもとづいて提訴の日以前の損害賠償回収を許さないことはPetrella事件と整合性を欠くものではない、と判示しました。今回、この事件が最高裁まであがり、最高裁が「特許侵害事件においても著作権法と同様にlachesディフェンスによる損害賠償回収の否定は許されるべきではない」とすべきか否か、を決定することになります。

表面だけみるとなんだかややこしいんですけどね、実は連邦巡回控訴裁判所は良いポイントを明確にしているんですよ。著作権法507条は「侵害から3年以内に提訴しないとダメよ」という「時効」を規定している一方、特許法の286条は「提訴の日から6年超遡って損害賠償は回収できないよ」という救済措置の範囲を定義しているに過ぎず、時効に関する規定ではありません。ですから、連邦巡回控訴裁判所は282条におけるディフェンスの一つとしてlachesがあり、アクションを取るのが遅れた人は提訴の日以前の損害賠償回収はできませんよ、という内容と286条は全く問題なく並存できるものであるし、さらに時効を定めた著作権法507条と、損害賠償の範囲を限定するにすぎない特許法の282条、286条は性質を異にするものであり、282条のlachesを適用して提訴以前の特許侵害に関する損害賠償を否定することは、最高裁のPetrella判決に反するものではない、としたわけです。

なお、最高裁はすでに商標法ではlachesは有効なディフェンスである、と判示しています。米国の著作権法、商標法、特許法を比較すると、実は時効の規定があるのは著作権法だけです。その代わり、著作権法には特許法にいう286条(6年限定)や282条(laches含むディフェンス)のような損害賠償限定の規定がありません。そして商標法は著作権法と特許法の間のような形で、時効の規定がなく、特許法286条(6年限定)の規定もなく、ただし特許法282条(laches含むディフェンス)類似の規定が存在します。

さて、こうした状況で最高裁は特許法のlachesディフェンスについてどんな決定をするのでしょうか?個人的には、時効がない特許侵害についてはlachesによる損害賠償の限定を認めるべきだと思いますし、そのことがPetrella判決にそぐわないものだとは思えません。最高裁での決定までに、おそらく色々な企業や法律協会がそれぞれの意見を最高裁に提出すると思います。特許トロールに攻撃されるような大企業は被疑侵害者が主張するように「特許侵害におけるlachesディフェンスは維持されるべき」という意見書を出すでしょうし、特許権を主張したい人達は「Petrella判決に照らして、特許法におけるlaches主張による損害賠償限定は許されるべきではない」という意見を出すと思います。

最高裁判決が出たら、またここで報告させていただきますね!
# by suziefjp | 2016-05-03 05:27 | 知的財産権

Binge Watching

我が家はフツーにケーブルテレビ契約してDVR機能つきケーブルボックスをレンタルしてテレビを見ています。もちろんテレビジャパンは欠かせない!ウチのダンナなどは私が欠かさず「あさが来た」を見るのを暖かく見守ってくれていますが、ニューヨークでは「あさが来た」は夜9時45分からの放送だったりします(笑)。夜仕事で遅い、とか出張でいない、とかいう時はもちろんDVR録画をセットして後でゆっくり見ます。
あさが来た、は最初からハマってみているのでいいのですけど、友人が「あのドラマおもしろいよ」とか教えてくれたりしたものが、すでにシーズン5くらいまで製作されているものだったりすると、見始めたらおもしろいものの、追いつくまでえっらい数のエピソードをみるハメになり、だんだん苦痛になってきたりするわけですが、とはいえ、ここまで頑張ったら追いつこうよ!という気持ちにもなり、なんでここまで私は今頑張っているんだろう、と思いながら必死で全エピソードを見てしまいます。最近はAmazon Primeでもそうしたビデオ一気見ができるようになったので、まあ便利っちゃあ便利なんですけど、もし明日死ぬとしたら今こんなに必死で何時間もビデオ見ることに時間使ってていいんだろうか、と自分の生き方が不安になるときも多々あります。。。

最近ハマったのは「グリム」というドラマで、これ、日本でも吹き替えとかでやってるのかなー?一応刑事ドラマなんですけどグリム童話に出てくる狼やらは本当は実在していて、グリム兄弟はそうしたモンスター(?)、Wesen(ヴェッセン)と呼ばれる種族を見分けることができる特殊能力者だったと。で、そのグリムの末裔が現代で刑事さんで、このWesenがかかわる事件を解決していく。。。みたいな話なんですが、見始めるとおもしろくて。ただいまシーズン5放送中なんですけど、なんとまあ1シーズンあたりのエピソード数が20話くらいあって(普通は10話くらいなのに。。。)シーズン5に追いつくまでの時間投資がえらい大変なのですよ。

で、週末に必死でグリムをまとめてみていると、ダンナに「binge watching?」と聞かれまして。このbinge watching、そういうドラマとかをDVDで一気見することを言うそうです。なんでわざわざそんな言葉があるのさーーー!?調べてみると、bingeってもともと大酒を飲むとかいう意味らしく、そこから派生して一気にたくさんのエピソードをビデオで見ちゃうことをbinge watchingというそうです。

私のbinge watchingはなかなか進まず、まだシーズン3の最後のほう。(それでも60時間くらい投資している!!)うあー、苦痛になってきた。。。(涙)
# by suziefjp | 2016-03-15 05:31 | えいご
アメリカでいわゆるPatent Attorney、特許弁護士と名乗るには二つの試験に合格しなくてはいけません。一つはいわゆるBar Exam(弁護士試験)、そしてもう一つはPatent Bar Examです。この二つに合格した人だけがPatent Attorneyです。Patent Bar Examは大学で理系の学士を持っていないと受験できません。Patent Bar Examに合格してないけど、知的財産権まわりの訴訟とかいっぱいやってるんですよー、という弁護士さんはよくIntellectual Property Attorney(知財弁護士)という風に自らを位置づけているようです。そしてPatent Bar Examしか合格していない場合はパテント・エージェントとなります。

パテント・エージェントは米国特許庁に特許出願手続きをしたり、ということが出来るわけですが、これまでに明確ではなかったのが「パテント・エージェントと依頼人間のやりとりがプリビレッジ(弁護士依頼人間秘匿特権)の対象になるのか」という点でした。これ、実は管轄地によってバラバラで、ある裁判所は「対象になる」といい、別の裁判所は「ならない」という。。。プリビレッジは日本からいただくご質問が多いトピックの一つで、あるやりとりが裁判手続きにおけるディスカバリで開示対象になるのかならないのか、というのは非常に気になる問題なんですね。

今回、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が「In re: Queen's University at Kingston」という判決でこの点を明示しました(リンクはCAFCのウェブサイトなんで、時間がたつと見れなくなっちゃいます。オピニオンが見たい方は早めにダウンロードしてくださいね!)。結論から言うと、「出願業務に関するパテント・エージェントと依頼人とのやりとりはプリビレッジで保護されるが、それ以外の業務に関するやりとりはプリビレッジの保護対象とはならない」ということが明示されました。ですから、無効鑑定とか特許侵害訴訟に関するパテント・エージェントとのやりとりはプリビレッジで保護されず、ディスカバリで要求されたら開示しなくてはいけません。

これまでは100%安全にしようとすると、出願業務についてもパテント・エージェントに弁護士の監督下で業務をしてもらうことでプリビレッジをかけてたんですね。少なくとも今後は出願に関してはそうした弁護士さんの監督がなくてもプリビレッジがかかることが明確になりました。一方、出願業務以外に関しては、ディスカバリ対策としては、パテント・エージェントさんにお仕事をお願いする場合にはやはりアメリカの弁護士さんの監督下で業務をしてもらってプリビレッジの保護をかけてもらう、ということになるかと思います。

プリビレッジの問題はビミョーで、例えば日本の弁護士さんとのやりとりがアメリカの裁判におけるディスカバリでプリビレッジで保護されるか、についてもいまだ明確になっていません。ある裁判所は「保護される」、ある裁判所は「されない、アメリカの弁護士とのやりとりだけがプリビレッジの対象」という立場だったりします。アメリカの特許侵害訴訟対応にあたって、日本の弁理士事務所や弁護士事務所に間に入ってもらって、、、という日本企業さんもたくさんあると思うのですけど、そうした弁理士事務所や弁護士事務所で間に入ってくださる先生がアメリカの弁護士資格を持っているのか、というのは確認しておく方が安全かと思います。アメリカの弁護士資格をお持ちであればプリビレッジは間違いなくかかるので安心です。一方、アメリカの弁護士資格をお持ちでない場合、裁判所によっては「そうした日本の先生とのやりとりはプリビレッジの対象ではないのでディスカバリで開示せよ」という立場を取る場合がありますからご用心下さい。対策としては、その裁判地や担当裁判官がこれまでに海外の弁護士さんや弁理士さんとのやりとりについてどういう立場をとっているのか、をあらかじめ調べておくのが良いでしょう。もちろん、事件を担当するアメリカの弁護士事務所は「日本の弁護士や弁理士と依頼人とのやりとりはプリビレッジの対象であり、ディスカバリでの開示義務は無い」という立場をとるはずです。その立場が強いものなのかどうか、が、裁判地、担当判事に左右されるので、確実に安心したい方はアメリカの弁護士資格をお持ちの日本の弁護士さんや弁理士さんに間に入ってもらうか、あるいは直接アメリカの弁護士とやりとりするか、あるいは判例を調べてその裁判地、担当裁判官が外国の弁護士さんとのやりとりもプリビレッジの対象となるという立場をとっていることを確かめておく、という作業が必要になります。

たかが(?)プリビレッジ、されどプリビレッジ。いやあ、深い。
# by suziefjp | 2016-03-12 07:46 | 知的財産権

知的財産権のお話を中心に、たべもののこと、アメリカのこと、いろいろお話ししていきますね♪


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