米国知的財産権日記

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2018年 06月 23日 ( 1 )

いよいよ最高裁判所の2017年度も終わりに近づきつつある中、新たな判決が出てきました。今回の判決はWesterngeco LLC v. Ion Geophysical Corp.事件です。最高裁判所の決定はこちらからどうぞ。

さてここで問題になったのは海底調査技術に関する特許で、特許権者は当該技術を一切ライセンスせず、当該技術を自社による海底調査実施サービスに使用していました。侵害者はその海底調査技術の実施にかかわる部品を輸出し、当該部品を使用して海外で組み立てる装置を使えば、特許権者が請け負うような海底調査ができるようになる、という状況でした。

ご存知の方も多いと思いますがこうした部品の輸出については米国特許法271(f)条が特許侵害行為に該当することを明示しています。経済産業省が提供する米国特許法翻訳によると該当条文は以下です:

(f)(1) 何人かが権限を有することなく,特許発明の構成部品の全部又は要部を,当該構成部品がその全部又は一部において組み立てられていない状態において,当該構成部品をその組立が合衆国内において行われたときは特許侵害となるような方法により合衆国外で組み立てることを積極的に教唆するような態様で,合衆国において又は合衆国から供給した又は供給させたときは,当該人は,侵害者としての責めを負わなければならない。

(2) 何人かが権限を有することなく,特許発明の構成部品であって,その発明に関して使用するために特に作成され又は特に改造されたものであり,かつ,一般的市販品又は基本的には侵害しない使用に適した取引商品でないものを,当該構成部品がその全部又は一部において組み立てられていない状態において,当該構成部品がそのように作成され又は改造されていることを知りながら,かつ,当該構成部品をその組立が合衆国内において行われたときは特許侵害となるような方法により合衆国外で組み立てられることを意図して,合衆国において又は合衆国から供給した又は供給させたときは,当該人は,侵害者としての責めを負わなければならない。

今回の件は部品の輸出が侵害行為にあたるか、が、争われたのではありません。争われたのは損害賠償の問題です。問題の部品で製造された装置を用いて本来特許権者しか行うことができなかったような海底調査を他者が実施することができるようになったため、特許権者は本来請け負うことができたであろう海外での海底調査10件を請け負うことができなかった、とし、地裁レベルではその逸失利益として9,340万ドルの損害賠償が認定されました。侵害者は、そうした逸失利益は米国特許の権利が及ばない海外で発生したものであり認められるべきではない、と主張しました。控訴裁は侵害者の主張を認めて逸失利益損害賠償を破棄しましたが、特許権者が上訴し、最高裁の判断を待つ形になったのが今回の事件です。

なお、この特許権者に対して地裁は当該部品を用いて米国内で製造された装置2,500台分の合理的ロヤルティとして1,250万ドルの損害賠償も別途認定しています。これについては侵害者は争わず、海外で実施された海底調査10件分の収入を逸失利益(しかも9,340万ドル!)とした損害賠償の正当性のみを争っていました。

最高裁判所は賛成7、反対2で特許権者の主張を認めました。で、この逸失利益はあくまでも米国特許法271(f)条にもとづく米国内での侵害に起因する損害賠償であり、この逸失利益を認めることは米国特許法の域外適用には該当しない、としています。一方、反対派は、これは米国特許法の域外適用である、という立場です。

うーーーーーーーーん、ビミョー。普段ですと、あくまでも一個人の見解として「最高裁判所、それはちがうやろー!」とか、「ごもっとも!」とか思ったりしますが、今回はどっちの言い分もそれなりにアリ、という気がします。問題の部品が輸出されなければ海外でそうした装置が製造されることもなかったのであれば、確かにこの特許権者は海外の海底調査10件を請け負うことができたのかもしれず、そう考えればこの逸失利益はもっとも、と思います。しかし米国で製造された装置2,500台分の合理的ロヤルティが1,250万ドルのときに、10件の海底調査分の逸失利益が9,340万ドルと言われると、なんだか違うんじゃ、、、という気もします。そうした米国分装置については合理的ロヤルティとしての損害賠償支払いで落ち着き、今後そうした装置を使用して海底調査を実施できるとすると、10件の海底調査分の逸失利益が2,500台分の合理的ロヤルティの7.5倍、1件あたりの海底調査の逸失利益が装置1,868台分の合理的ロヤルティに該当する、と考えるとエラいバランスが悪くないですかい!?

今回の判決で、海外で発生する行為に関する損害賠償を特許侵害として回収できるようになる!というコメントも米国内で見られますが、それはちょっと端折りすぎ、盛り上げすぎ、なように思います。今回の事件の背景を勘案すれば、通常の侵害に関する損害賠償主張と、今回の件は差別化できるのではないかと個人的には思います。

日本企業の皆さんはわざわざ米国の工場で部品のみ作って海外で組み立て、というのはあまりないかもしれず、この判決の日本企業の事業への影響は少ないかなー、と思いますが、それにしてもビミョーすぎてコメントに困る判決です。。。

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by suziefjp | 2018-06-23 05:58 | 知的財産権

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