はい、7ヶ月ぶりの更新でございます(笑)。なぜ毎年この時期に怠惰な私が更新するか、ってえと、ひとえに最高裁判所が2017年度の終わりにわらわらと知財関係の重要判決を出し始めるからなんですな。(米国政府の年度は前年度10月スタートで、翌年夏休み前まで、くらいで考えていただくと良い感じです。)
と、いうことで2017年度第一弾は
SAS Institute Inc. v. Iancu事件でございます。(判決文のリンクはお早めに!)これは分かりやすい事件で、皆さんもよくご存知のIPRに関するものです。開始以来大人気が続くIPRですが、IPR申立書では「この特許の請求項A、B、C、Dが、それぞれこうこうの理由で無効だと思います」という主張がなされます。これを受けて従来、PTABは「うーん、あなたの言うことのうち、請求項A、C、Dに関してはアリかも、って気もするんだけど、請求項Bについてはちょっと無理がある感じがするのよねぇ。」ということで、「んじゃ、請求項A、C、Dについてのみ、IPRを開始しまーす」とできたわけです。
ところが最高裁判所が今回のSAS判決で「いやいやいや、申立書に対する判断は、『オッケー♪』か、『だめー!』の二択で、やるなら対象の請求項全部検討する、やらないなら全部やらない、のどっちかしかないわ。」と、明示したのです。PTABが公開しているデータによると、現在、約800件ほどのIPRが進行中だそうで、そのうち20%弱が「申立請求項の一部だけ検討してあげる♪」タイプのIPRなんだそうな。今回の最高裁判所判決を受け、この20%弱のIPRについて、PTABは「修正IPR開始決定書」を発行し、申立書で取り上げられていたすべての請求項をIPR対象に含めるようにするそうです。また、IPRは開始決定から1年以内にPTABが無効判断をする、というスピードも魅力ですが、これら20%弱に関しては「場合によっては1年以内ではなく1年半以内まで延長可能」という規定にもとづいて、延長期間を活用して対処するものと思われます。すでに申立人、特許権者間で証拠開示がある程度終わっているようなケースも、追加される請求項に関する補足証拠開示期間が設けられて延長手続きがとられるものと思います。
今回の判決は申立人側からは好意的に、特許権者側からは否定的に受け止められています。もし皆さんが上記20%弱に該当する、「申立書にあった請求項の一部のみについて開始」されたIPRを抱えておられる場合、少し忙しくなっちゃいますよ!(PTABでも今回の判決を受けて業務の増加がすでに言われています。)