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米国知的財産権日記

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アリス判決その後 

米国特許を扱う方は皆さんご存知であろうアリス判決、正確には「Alice Corp. v. CLS Bank International」判決といいますが、これは2014年の最高裁判決です。この事件では「そもそも特許として保護され得る対象物って何なの?」というのが争われました。ある種のコンピュータープログラムに関する発明は米国特許法101条にいう特許として保護され得る発明に当たらなず、そうした発明の特許は無効、というようなことが最高裁によって明示されたものです。
アリス判決で問題になったのは決済リスクを軽減する金融取引に関するコンピュータープログラムでした。このプログラムが「抽象的概念」に過ぎず、特許として保護され得ない、と判断されたものです。この判決が出た直後、コンピューターソフトウェアに関する特許が取りにくくなるぞー、とか、たくさんのコンピュータープログラムに関する特許がこれから無効化されるぞー、とか大騒ぎになりまして、で、今もその余波は続いています。

実際にこの判決後、特許トロールがコンピュータープログラムに関する特許で訴訟を仕掛けたときに、被告が訴答を提出する前に「そもそも侵害主張された特許は特許法101条に該当する発明ではないのでこの特許は無効である、よってこの訴訟は取り下げられるべき」という取り下げ申し立てをするケースが増加しました。そして米国特許庁としても、何は特許保護の対象になり得て何はなり得ない、ということを明確にしないと審査官も出願人もみんな困っちゃうよね、ということでちょこちょこ「何は特許として保護され得るよ」という点についてのガイダンスを発行しています。

2016年5月4日付で、また最新の審査官向けガイダンスが出ました。タイトルはあえて日本語で言うと「特許事由適格性にもとづく拒絶の考え方と、そうした拒絶通知に対する出願人回答の評価方法」ってところでしょうか。ポイントとしては、特許事由適格性要件は、まず、出願にある発明が特許法101条で特許保護の対象とされる「process, machine, manufacture, composition of matter、もしくはその改善されたもの」に当たるか否か、を判断せよ、とのことです。抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物、はそれに当たらないのでダメですよ、と。で、101条にもとづく拒絶通知の発行にあたっては、出願のどの部分がそういう抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物に該当するのか、ちゃんと書きなさいよ、と。まずこれが第1ステップです。

で、第2ステップとして、出願にある「抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物」以外の要素を個別に、あるいは組み合わせて勘案しても、出願にある発明は抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物以上のものにはなり得ないかを判断せよ、とのことです。

なお、こうした判断をするにあたって、審査官がテキトーに決めてしまわないように「これまでに判例でどういったものが抽象的アイデアだと判断されたか、のまとめ表を作ってあるので、それを見ながら判断するように」と、ちゃんとガイドラインを設定しています。こういうのは便利なので、いつまでリンクが有効か、の不安はありますが、できるだけリンク貼っておきますね。これまでにも米国特許庁は何がprocess, machine, manufacture, composition of matterに該当するのか、の例も発表してますし、あと、特許アウトな抽象的アイデア例特許アウトな自然の産物例、も発表していますのでご興味ある方、実務に関連ある方はぜひご覧になってみてくださいね。

ちなみにDocket Navigatorという会社が出している2015年の年間統計の一つとして「特許侵害訴訟における101条にもとづく特許無効申立の成功率」データを出しているのですが、それによると、全国平均で成功率は56%だったそうです。2015年には特許侵害訴訟における101条ベースの無効申立が全国で200件ほどあったみたいですが、そのうち100件以上が成功、とな。訴えられる方からみたら悪くない数字かなー、と思います。
by suziefjp | 2016-05-20 06:50 | 知的財産権

知的財産権のお話を中心に、たべもののこと、アメリカのこと、いろいろお話ししていきますね♪


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