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米国知的財産権日記

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特許流通のリスク

すいません、「パテントプールを考える(1)」のあと、全然(2)が来ない。。。今週絶対書きますからっ!

今日はちょっと目についたので特許流通のリスクについて書いちゃいます。いや、リスクちゅうほどのリスクじゃないんですけど、こういうのが必要以上に大騒ぎされるのもなー、と思って。

昨年末にSaxon Innovations LLCという会社がITCに特許侵害を理由としてパームやResearch In Motion、パナソニックといった企業の製品の輸入差し止めを申し立てました。ここでは2件の特許の侵害が主張されています。この訴訟の中で、先月ITCがパーム社の要望に従い、ソニーに召喚状を出しました。この召喚状は米国訴訟を多くご担当の方ならご存知かと思いますが「subpoena(サピーナ、と読みます)」と呼ばれるものでこの訴訟に関する情報の提出を求めて訴訟当事者ではない第三者に対して発行されるものです。

パームは、ソニーとA社による合弁会社に関する情報の提供を要求しました。理由は、Saxonが今回問題となった特許を所有する以前はこのA社が当該特許を所有しており、かつその段階でSonyを含む他数社にこの特許がライセンス許諾されていたから、と。米国の訴訟の中では当事者以外の第三者に召喚状を出す、という話はよくあります。だからとても珍しい話、というワケではないんですね。

ここで思ったのは、これから特許の流通だとかある技術の取得を目的とした企業買収、合併、合弁設立などが増えると、その活動の結果、直接・間接的に所有するにいたった技術についてこういう召喚状が飛んでくることも増えてくるだろう、ということです。今回の件は合弁ですが、自分が売った特許が将来侵害の問題の対象になった時に「元の発明者の話を聞きたい」と、売っちゃった特許に対する情報を出せ、と召喚状が来ることもあるでしょう。逆に、自分が買った特許について、社内発明なら特許の有効性とか当時の先行技術調査とか社内で情報を探せますが外から買った特許なら外部に情報提供を頼まないといけないことも出てくるでしょう。

こういうことを先に先に考えちゃうと「めんどくさいなー、やっぱり特許って流通しない方がいいんじゃないの?」なーんて話になっちゃうのかな、と。あ、アメリカではそういう議論にはならないです。そういうのはもう流通活動とかM&A活動のリスクとして認識されてますし、アメリカ企業では自分達が召喚状を要求することもあれば要求されることもある、仕方ねーなー、という、いわゆる「想定内」のことですから。そういうリスクを避けるために何もしないで失われる利益のほうが大きいだろう、という勘定で動きますから大丈夫です。

問題は日本のほうで。。。日本の場合、しないことによる機会喪失とか逸失利益とかが認識されないことが多いためにどうしても現状維持が一番安全、となりがちです。ようやく緒につきはじめた特許流通も、ソニーさんに召喚状が出された、ということがとんでもなくスゴイことのように思われては、「やっぱり流通は危険だああ!やらないほうがいい。」ってなっちゃうんじゃないかなー、と。きっとソニーさんにとっては「ちっ、また召喚状かよー。」という話なのかもしれません。まだまだアメリカ人の中には「素晴らしい「ソニー」がアメリカ企業でないワケがない」と思っているアメリカ人もたくさんいるくらいのブランド力。そのアメリカに根付いたソニーさんにとっては召喚状って「またあ!?」という感じに過ぎないのかもしれません。(いや、知らないですけど。社内で大騒ぎになってたらごめんなさい。。。)

こういうの、案外、外部のほうが騒ぐのかもしれませんね。少なくとも、こういう召喚状を出したり出されたり、そんなとてつもなくめんどくさいことするくらいだったら特許流通や技術ベースのM&Aとか合弁はやめよう!とかいう方向にならないといいなあ、と思います。繰り返しですけど、これはもう想定内リスクですから。。。

ちなみにソニーさんは冷静に「召喚状による負担は大きすぎるのでこの情報提供には反対します、ただし、鋭意努力して提供できる情報は提供します」と、反対書を出されたそうです。模範解答ですねー♪
by suziefjp | 2009-07-14 04:46 | 知的財産権

知的財産権のお話を中心に、たべもののこと、アメリカのこと、いろいろお話ししていきますね♪


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