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米国知的財産権日記

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エキスパートを探してみよう!

シカゴは今日「も」雪です。大体11月くらいから4月くらいまではずっと冬。1年の半分くらいが冬なんですね。天気予報では来週の火曜日の最高気温は華氏5度とか。摂氏でいうと、マイナス15度ですね。これが最高気温なんだもんなあ・・・。

訴訟エキスパートは、以前、「ほにゃららエキスパート」で少し紹介しましたが、日本ではあまり(ほとんど?)メジャーではありません。でも、アメリカの訴訟ではとても重要!ハクがある人をつれてきて、「この人がこの技術は侵害されている、というなら侵害されているんだろう」とか、「この人が、この技術侵害の損害賠償はいくらであるべきだ、というならそうなんだろう」と、陪審や判事に思ってもらうことが大切です。

通常、エキスパートは、案件を代理してくれている弁護士さんが「こういう人をエキスパートにしようと思うんだけど、どう?」と、依頼人に聞いてくることが多いと思います。技術エキスパートの場合は、その技術の大家として知られている大学の先生だったり、ある標準化技術(DVDとかのような技術標準ですね)だと、結構そういう標準化技術のエキスパート、なんかがいたりします。それとか、昔、あるメーカーでその技術を中心にやっていた技術者の方で今は技術コンサルティングをしておられる方とか。

ダメージ・エキスパート(「この技術が侵害されているとしたら、適切な損害賠償はいくらでしょう」と、証言する人です)は、会計士だったり、エコノミストだったり、あと、我々のような技術価値バリュエーション専門のコンサルタントだったり、というところです。

で!さすが訴訟ビジネスが発達しているアメリカでは、こういうエキスパートのディレクトリみたいなウェブサイトもあるんですね。少し紹介すると:

Expert Law - Expert Witness Directory
ほほー。私はエキスパートとして見つけていただく方の立場なので、こういうのをじっくり見ることはないですが、なーるほど。色々なエキスパートにカテゴライズされてます。ためしに、「Civil Litigation Experts」ってのをクリックしてみると、今度はトピック別のリストがずらり。お、あります、あります、「Intellectual Property/Patents」というカテゴリーが。クリックするとさらに細分化されて、ブランド、著作権、営業秘密、特許、という知財そのものの分類に加えて、「ライセンス」とか「デューデリジェンス」みたいなカテゴリー、あと、技術分野(「ソフトウェア」「マルチメディア」)なんかもあります。おもしろいので、さらに、「Patents」をクリックしてみると、おー、来た。色々な技術エキスパートやダメージエキスパートのウェブサイトへのリンクがずらーり。お、個人のPh.D.の方とかもいますね。

Expert Witness.com
うわー、すごいなー。これなんて、もう名前からモロですね。やっぱりおもしろいので、「Patent/Intellectual Property」をクリックしてみる。すると、ここはすぐエキスパート・リストですね。しかも、見事に「patent expert」ってのが並んでます。・・・パテント・エキスパートって、正確な定義はナンなんだろう?多分、特許の有効・無効とかが争われたときにこの技術および特許をよく知っている人がエキスパートとして出てきて「これはこうこうだから有効です」とか言うんだろうなあ。ちなみに、このサイトで「Damage」で探すと、ダメージ・エキスパートも61人いますね。これはこのサイト運営側がエキスパートのクオリティをスクリーニングしてくれるんですかね??

IMS Expert Services
これはかなり力が入ってる感じのサイトですよ。ちょっとイラストが、ユナイテッド航空の看板とかウェブのイラストみたいなのが気になりますけど・・・・。ここは、勝手に探してね~~、というより、ここに依頼すると、案件にピッタリ、かつ、いいクオリティのエキスパートを探してきますよ!というサービスみたいです。そういうのがちゃんとビジネスとして成立してるってのもすごい。しかも1992年からやってるそうな。こういう年度を見ていると、このころって、かなり知財訴訟がガンガン出てた頃ですね。懐かしいなあ・・・。

と、まあ、いろいろ興味本位に見てきましたが、じゃあ、エキスパート選びのポイントはナンなんだ、というと、やっぱりバックグラウンドが立派(陪審が「へー!すごい人なんだ!」と思ってくれるような人)というのも大事ですが、「陪審ウケしそうか」ってのも、ほんっとに重要です。証言が分かり易いか、証言することになれていて、証言台とかデポジションで緊張してヘロヘロになっちゃわないか、見た感じ、「へー、誠実そうないい人じゃない?」と、思われそうか。英語でいうと、likableか、ってところでしょうか。学者さんとかエコノミストが失敗するのは大体このケースですね。言ってることが一般人向けに調整されてなくて何いってんだかわかんない。これが陪審に受けるはずがない。ですから、皆さんが依頼人の立場で、弁護士さんが「こういう人をエキスパートにしようと思うんだけど」というときは、過去、その人がどれくらいエキスパートを務めた経験があるのか、その勝率は?なんかはぜひチェックしていただきたい。やっぱり場数を踏んでいて、勝率の高い人がいいですよ。

加えて、基本中の基本として、過去Daubertされた人、というのは問題外です。Daubertというのは、過去の判例で法廷におけるエキスパート証人の証言を採用するか否か、について出た判決です。英語版ウィキペディアにはしっかりありますね(http://en.wikipedia.org/wiki/Daubert_standard)。法律用語で、この判決で出来た基準にもとづいて証言が排除されたエキスパートを「Daubertized」といいます。「ダウバートされた」と、もう判決が動詞として使われているんですね。で、エキスパート業にとっては、Daubertされるって、ヤバイんですよ。おまんまの食い上げ。Daubertされた人をもちろん使ってもいいですけど、相手方からみればこれほど攻撃し易いエキスパートはいない、ってな感じですか。かつて、アメリカでぶいぶいやってたエキスパートがDaubertされちゃって、こりゃもうアメリカではいかん!ということで、ヨーロッパに居を移してエキスパートをしている方もいらっしゃいます。

まあ、これは弁護士のほうでもチェックしてくれると思いますけどねー。でも、エキスパートって数は多いですけど、「いい人」となると限られてくるかもしれません。訴訟をご担当の皆さんは、弁護士事務所や弁護士さん個人名のリストなんかは結構お持ちかもしれませんが、案外、エキスパートはカバーされていないのではないかと思います。一度使ってみて、「良かったな!」と思ったエキスパートは覚えておくほうがいいですよ。新しい案件で新しい弁護士事務所を使ってみたときでも、「君達自身、エキスパートのお勧めはあると思うけど、ここも以前使ったときに良かったから、候補にいれて検討してみて!」と、クライアントが積極的に言ってみるのも私はいいと思います。

日本企業の場合、特にダメージ・エキスパートは手持ちをいくつか確保しておく方がいいでしょう。というのが、日本企業が関わる訴訟の損害賠償算定って、すっごい大変なんですよ。まず、資料が日本語のものが多い、経理システムがアメリカとかなり異なって、とんでもなくアメリカ人には理解が難しい、、、など、問題山積なんです。単純な例をあげれば、日本人だったら、例えばビジネスで2008年度、と、言えば、2008年4月から2009年3月まで、と思うケースが多いと思いますが、アメリカ人の大多数は2008年1月から12月まで、と、理解します。こういうちょっとしたことでズレるんですよ。

でも、一度やってくれたダメージ・エキスパート(そこが良かった、という前提で・・・)を使えば、またゼロから「うちの会社の経理システムはね・・・」と、教えなくてもある程度分かってくれると思います。実はこれ、ものすごい訴訟コスト削減につながるんですよ。あと、書類が日本語だと、やっぱり日本語ができる人がいてくれると助かります。量が膨大ですから、全部翻訳なんてしているとそれだけでとんでもないコストになりますし、時間もかかります。日本語の分かる人が書類を見て、これはいる、いらない、これは重要だから公式翻訳を手配しよう、など決めてくれるとかなり助かります。私なんかもそういうのはよくやりますが、他にも友人でアメリカ西海岸で訴訟のダメージエキスパートをしている日本人もいますし、探せば結構いると思いますよ。日本人だから、っていう理由で選ぶのはお勧めしませんが、アメリカ人のみのチームと、日本人が入っているチームでクオリティが同じ程度なら、日本人がいるチームのほうが何かと便利かもしれません。〔クオリティがアメリカ人のみのチームがよければ、迷わずそっちを選んでください!最優先はお仕事のクオリティですよ、何があっても。)

こういうの、あらためて見てみると、アメリカでは本当に訴訟が一つの産業なのねぇ・・・と思います。
by suziefjp | 2009-01-10 05:57 | 知的財産権

知的財産権のお話を中心に、たべもののこと、アメリカのこと、いろいろお話ししていきますね♪


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