多用される国際貿易委員会(ITC)
ところで今日は米国国際貿易委員会ことInternational Trade Commission (ITC)のお話です。なんでかっつーと、最近お仕事でITCのケースを引き受けたので(笑)。ITCに特許侵害が申し立てられると、損害賠償は?じゃ、なくて、その商品の米国への持込を除外するか否か、が争われるのは皆様もご存知かと思います。この場合、通常の連邦裁判所で我々ダメージ・エキスパートが行う計算とはかなり異なる作業になります。案外、そのあたりは知られていないようなので、あらためてITCのお話をすることにしました。
ITCが多用されつつあるのはとにもかくにも決定が早いし、連邦裁判所における証拠開示手続きに比べれば負担はずいぶん少なくて済むからなんでしょうね。連邦裁判所で証拠開示手続きを経て実際に公判まで行くのはせいぜい1~5%ですから、連邦裁判所での公判を経験したことがない弁護士ってのも実は結構います。これにくらべてITCは公判突入率が40%といいますから、ちゃかちゃか出すもんだして、ちゃっちゃとやろうぜ、という雰囲気が伝わってきますな。(こんな言い方でいいのか!?)
前述の通り、ITCではある米国特許がある製品により侵害されている、と、申し立てる原告が、当該製品を米国に持ち込ませないよう命令を発してくれ!と、ITCに訴えます。こういう命令を排除命令(Exclusion Order)といいます。この排除命令には大きく2つあって、Limited Exclusion Order(限定排除命令)と、General Exclusion Order(一般排除命令)があります。名前だけ見ると、Limitedがなんか特別編?という感じですが、さにあらず、「General Exclusion Orderを出してください!」と、特別に申し立てない限りは通常はLimited Exclusion Orderを出すか否かが検討されます。
限定排除命令とは、「あんたが特許を侵害しているのよっ!」と、原告に申し立てられ、その侵害が認められた人だけが、対象商品を米国に持ち込んではならん、とするものです。これに対して一般排除命令は、誰であろうと、対象製品を米国に持ち込んではならん!とするものですから、その決定のインパクトがかなり大きくなります。なので、取り立てて必要がなければ普通は限定排除命令なんです。だって、一般排除命令とかが出ちゃうと、例えば正式にライセンス許諾を受けてアメリカに持ち込んでる人も持ち込めなくなっちゃいますからね。そりゃあ大変だ。
対象製品で問題になるのは「部品」の取り扱いです。ある完成品が米国に持ち込まれるんですが、実際に侵害の問題があるのは、その一部として使用されている「部品」だけ、といったケースです。侵害対象製品が部品の場合、そうした部品を使用した完成品を我々は「downstream product」と呼びます。このdownstream productに関して除外命令を出すか、というのは、さすが米国、判例法の国、1989年の判決で確立された「EPROMsテスト」というものが適用されます。
次回はEPROMsテストの具体的内容を紹介しますね。ご覧頂くと、通常の連邦裁判所で、「当該特許侵害から発生すべき損害賠償金はいくらか」という算定作業に比べて、ITCのほうがずいぶんラク(というかザクザクのデータでオッケー、という感じでしょうか)が、お分かりいただけると思います。