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米国知的財産権日記

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毎度超不定期アップでございます。。。

さてさて2018年10月10日にIPRにおける請求項解釈基準の変更が発表されました!
IPRが(被疑侵害者に)人気なのは連邦裁判所で特許の無効性を争うよりも無効になる確率が高い、そして短期決戦、というところなのですが、無効になる確率が高くなる理由の一つに請求項解釈基準がありました。IPRでの請求項解釈基準は「broadest reasonable interpretation」、つまり「合理的な最広義の解釈」となっていました。請求項の範囲が広ければ、その請求項を公知とし得る先行文献の範囲も広がるわけです。

一方、連邦裁判所における特許の請求項解釈基準は「ordinary meaning in the context of the patent documents, as interpreted by a person of ordinary skill in the art to which the patent pertains」で、訳すと「当業者による、特許文献としての文脈上の通常の意味合い」くらいになりますかね?これはPhillips v. AWH Corp., 415 F.3d 1303 (Fed. Cir. 2005)という判決で確立されたものです。なんとなく読んだだけでもこっちのほうが狭そうな感じがします(なんて大雑把な。。。)。

この請求項解釈基準の違いがIPRの特徴でもあったわけですが、連邦裁判所の基準と異なるというのはいかがなものか、こういう二重基準って混乱するんじゃないの?という批判もかねてよりありました。こうした批判を受け、今回正式にIPRでの請求項解釈基準も従来の連邦裁判所における基準、すなわち「当業者による、特許文献としての文脈上の通常の意味合い」に統一されることになりました。

この新基準は2018年11月13日以降に申し立てられるIPRから適用されます。もし今、無効化しておきたい特許があって、新基準では手持ちの先行文献で無効化できないかも!?という心配がある方には、2018年11月12日までにIPRを申し立てることをお勧めします。


# by suziefjp | 2018-10-17 01:55 | 知的財産権
いよいよ最高裁判所の2017年度も終わりに近づきつつある中、新たな判決が出てきました。今回の判決はWesterngeco LLC v. Ion Geophysical Corp.事件です。最高裁判所の決定はこちらからどうぞ。

さてここで問題になったのは海底調査技術に関する特許で、特許権者は当該技術を一切ライセンスせず、当該技術を自社による海底調査実施サービスに使用していました。侵害者はその海底調査技術の実施にかかわる部品を輸出し、当該部品を使用して海外で組み立てる装置を使えば、特許権者が請け負うような海底調査ができるようになる、という状況でした。

ご存知の方も多いと思いますがこうした部品の輸出については米国特許法271(f)条が特許侵害行為に該当することを明示しています。経済産業省が提供する米国特許法翻訳によると該当条文は以下です:

(f)(1) 何人かが権限を有することなく,特許発明の構成部品の全部又は要部を,当該構成部品がその全部又は一部において組み立てられていない状態において,当該構成部品をその組立が合衆国内において行われたときは特許侵害となるような方法により合衆国外で組み立てることを積極的に教唆するような態様で,合衆国において又は合衆国から供給した又は供給させたときは,当該人は,侵害者としての責めを負わなければならない。

(2) 何人かが権限を有することなく,特許発明の構成部品であって,その発明に関して使用するために特に作成され又は特に改造されたものであり,かつ,一般的市販品又は基本的には侵害しない使用に適した取引商品でないものを,当該構成部品がその全部又は一部において組み立てられていない状態において,当該構成部品がそのように作成され又は改造されていることを知りながら,かつ,当該構成部品をその組立が合衆国内において行われたときは特許侵害となるような方法により合衆国外で組み立てられることを意図して,合衆国において又は合衆国から供給した又は供給させたときは,当該人は,侵害者としての責めを負わなければならない。

今回の件は部品の輸出が侵害行為にあたるか、が、争われたのではありません。争われたのは損害賠償の問題です。問題の部品で製造された装置を用いて本来特許権者しか行うことができなかったような海底調査を他者が実施することができるようになったため、特許権者は本来請け負うことができたであろう海外での海底調査10件を請け負うことができなかった、とし、地裁レベルではその逸失利益として9,340万ドルの損害賠償が認定されました。侵害者は、そうした逸失利益は米国特許の権利が及ばない海外で発生したものであり認められるべきではない、と主張しました。控訴裁は侵害者の主張を認めて逸失利益損害賠償を破棄しましたが、特許権者が上訴し、最高裁の判断を待つ形になったのが今回の事件です。

なお、この特許権者に対して地裁は当該部品を用いて米国内で製造された装置2,500台分の合理的ロヤルティとして1,250万ドルの損害賠償も別途認定しています。これについては侵害者は争わず、海外で実施された海底調査10件分の収入を逸失利益(しかも9,340万ドル!)とした損害賠償の正当性のみを争っていました。

最高裁判所は賛成7、反対2で特許権者の主張を認めました。で、この逸失利益はあくまでも米国特許法271(f)条にもとづく米国内での侵害に起因する損害賠償であり、この逸失利益を認めることは米国特許法の域外適用には該当しない、としています。一方、反対派は、これは米国特許法の域外適用である、という立場です。

うーーーーーーーーん、ビミョー。普段ですと、あくまでも一個人の見解として「最高裁判所、それはちがうやろー!」とか、「ごもっとも!」とか思ったりしますが、今回はどっちの言い分もそれなりにアリ、という気がします。問題の部品が輸出されなければ海外でそうした装置が製造されることもなかったのであれば、確かにこの特許権者は海外の海底調査10件を請け負うことができたのかもしれず、そう考えればこの逸失利益はもっとも、と思います。しかし米国で製造された装置2,500台分の合理的ロヤルティが1,250万ドルのときに、10件の海底調査分の逸失利益が9,340万ドルと言われると、なんだか違うんじゃ、、、という気もします。そうした米国分装置については合理的ロヤルティとしての損害賠償支払いで落ち着き、今後そうした装置を使用して海底調査を実施できるとすると、10件の海底調査分の逸失利益が2,500台分の合理的ロヤルティの7.5倍、1件あたりの海底調査の逸失利益が装置1,868台分の合理的ロヤルティに該当する、と考えるとエラいバランスが悪くないですかい!?

今回の判決で、海外で発生する行為に関する損害賠償を特許侵害として回収できるようになる!というコメントも米国内で見られますが、それはちょっと端折りすぎ、盛り上げすぎ、なように思います。今回の事件の背景を勘案すれば、通常の侵害に関する損害賠償主張と、今回の件は差別化できるのではないかと個人的には思います。

日本企業の皆さんはわざわざ米国の工場で部品のみ作って海外で組み立て、というのはあまりないかもしれず、この判決の日本企業の事業への影響は少ないかなー、と思いますが、それにしてもビミョーすぎてコメントに困る判決です。。。

# by suziefjp | 2018-06-23 05:58 | 知的財産権
管轄と送達と日本企業」で、日本企業が特許侵害裁判でどこででも訴えられてしまう~~!というお話をしておりました。この点、どうなることかと思っておりましたが、結局「そうなのよ、どこでも訴えられるのよ~~」ということでオチが付きそうです(涙)。

2018年5月9日の「In re: HTC CORPORATION」という巡回控訴裁判所の判決において「そうなのよ、どこでもオッケーなのよ~~。」と確認されてしまいました。
管轄と送達と日本企業 」の回で解説したように、Brunette判決において最高裁判所は「外国人に対する訴訟は米国連邦管轄法のカバー外である」と述べ、そしてTC Heartland事件で最高裁判所が「外国企業の特許侵害裁判管轄地に関してここでは述べませんよ」と言っていました。じゃあ、将来、外国企業の特許侵害裁判管轄地も現在の「米国連邦管轄法のカバー外である」というものから何か制限がされるのかしらん?と少し期待しました。おそらく今回の事件の当事者である台湾のHTC Corporationも同じような期待をしたのかもしれません。ただ、ちょっと言い過ぎちゃったのかもしれず、「管轄法のカバー外だったら、そもそも外国企業は米国特許侵害裁判の対象になり得ないのでは?」という方向に議論が行っちゃったようです。

これに対して巡回控訴裁判所は「HTCの主張を認めると、外国企業は一切特許侵害裁判の対象にならないことになってしまう。」とまさにごもっともな指摘をし、TC Heartland判決はBrunette判決に何ら影響しない、と明示されたものです。

まだ将来的に何か最高裁判所が外国企業の管轄権について意見を述べる可能性はゼロではないかもしれませんが、今回はちょっと「過ぎたるはおよばざるがごとし」な感じのオチがついております。。。


# by suziefjp | 2018-05-11 02:04 | 知的財産権
はい、7ヶ月ぶりの更新でございます(笑)。なぜ毎年この時期に怠惰な私が更新するか、ってえと、ひとえに最高裁判所が2017年度の終わりにわらわらと知財関係の重要判決を出し始めるからなんですな。(米国政府の年度は前年度10月スタートで、翌年夏休み前まで、くらいで考えていただくと良い感じです。)

と、いうことで2017年度第一弾はSAS Institute Inc. v. Iancu事件でございます。(判決文のリンクはお早めに!)これは分かりやすい事件で、皆さんもよくご存知のIPRに関するものです。開始以来大人気が続くIPRですが、IPR申立書では「この特許の請求項A、B、C、Dが、それぞれこうこうの理由で無効だと思います」という主張がなされます。これを受けて従来、PTABは「うーん、あなたの言うことのうち、請求項A、C、Dに関してはアリかも、って気もするんだけど、請求項Bについてはちょっと無理がある感じがするのよねぇ。」ということで、「んじゃ、請求項A、C、Dについてのみ、IPRを開始しまーす」とできたわけです。

ところが最高裁判所が今回のSAS判決で「いやいやいや、申立書に対する判断は、『オッケー♪』か、『だめー!』の二択で、やるなら対象の請求項全部検討する、やらないなら全部やらない、のどっちかしかないわ。」と、明示したのです。PTABが公開しているデータによると、現在、約800件ほどのIPRが進行中だそうで、そのうち20%弱が「申立請求項の一部だけ検討してあげる♪」タイプのIPRなんだそうな。今回の最高裁判所判決を受け、この20%弱のIPRについて、PTABは「修正IPR開始決定書」を発行し、申立書で取り上げられていたすべての請求項をIPR対象に含めるようにするそうです。また、IPRは開始決定から1年以内にPTABが無効判断をする、というスピードも魅力ですが、これら20%弱に関しては「場合によっては1年以内ではなく1年半以内まで延長可能」という規定にもとづいて、延長期間を活用して対処するものと思われます。すでに申立人、特許権者間で証拠開示がある程度終わっているようなケースも、追加される請求項に関する補足証拠開示期間が設けられて延長手続きがとられるものと思います。

SAS判決をうけてすでに4月26日に米国特許庁が「Guidance on the impact of SAS on AIA trial proceedings」と題したメモを発表しており、対応予定の詳細はそのメモでご覧いただけます。

今回の判決は申立人側からは好意的に、特許権者側からは否定的に受け止められています。もし皆さんが上記20%弱に該当する、「申立書にあった請求項の一部のみについて開始」されたIPRを抱えておられる場合、少し忙しくなっちゃいますよ!(PTABでも今回の判決を受けて業務の増加がすでに言われています。)

# by suziefjp | 2018-05-02 01:10 | 知的財産権
前回報告しました裁判管轄地の適性判断基準、「通常かつ確立した事業地」に関するテキサス東部地裁のギルストラップ判事による解釈ですが、連邦巡回控訴裁判所が「広すぎ~~!」という判断を9月21日に出しました。連邦巡回控訴裁判所は①物理的存在がその地区になくても、その地区で『通常かつ確立した事業地』が認められ得るのか、そして②在宅勤務社員がその地区にたまたま居住すれば、それは『物理的存在』なのか、の二点を判断したわけですが、①については何らかの物理的、地理的存在が必要、とし、②についてはたまたま在宅勤務者の家がある、というだけでは足りない、としました。連邦巡回控訴裁判所の意見書はこちらからご覧いただけますので、ご興味のある方はリンクがあるうちにご覧くださいね。

連邦巡回控訴裁判所はまず大前提として、被告の「通常かつ確立した事業地」とみなされるには「物理的存在」があること、「通常かつ確立した存在」があること、そしてそうした場所が「被告がコントロールする場所」であること、の3点が満たされることが必要である、としました。

「物理的存在」であるためには、その場所から事業が行われていること、例えば小売店舗だとか工場だとか、支店とかまではいかなくても、その場所に在庫が置かれているとか、お客様に配るためのカタログがそこに積まれているとか、その程度のことはやっぱり必要だよね、と。そして「通常かつ確立した存在」として、まず「通常」に関しては、安定しているとか、統一性があるとか、秩序だっているとか、組織的な存在だとか、そういうのじゃなきゃね、と。そして「確立した」に関しては定着しているもの、と。なので、例えば半年に一度、同じ展示会場で開催される業界イベントに必ず参加しているとしても、そうした参加はあくまでも「一時的なもの」に過ぎず、その展示会場の存在する地区に「通常かつ確立した存在」がある、とは言えない、とのことです。一定期間、例えば5年ずっとそこに定着した組織がある、などの場合は「通常かつ確立した存在」がある、と言えそうです。最後の「被告がコントロールする場所」ですが、在宅勤務社員の家がその地区にあるとしても、被告会社がその家を所有していたり、家賃を負担していたり、というわけではなく、従業員が会社の許可なく自らの意思で引っ越して良いような場合、これは「被告である会社がコントロールす場所」とは言えない、とのことです。なので、もしアメリカにも社宅なるものがあるのであれば、社宅だったりすると「被告がコントロールする場所」に該当するのかな、と思います。しかし会社として「自宅からちゃんと働いてくれるんであれば、自宅の場所はどこでもいいし、好きに引っ越してもらっていいっす。」的な在宅勤務であれば、そうした在宅勤務場所は「会社がコントロールする場所」にはならない、ということになります。

今回の事件では、在宅勤務社員の自宅がテキサス東部地裁にあったわけですが、連邦巡回控訴裁判所は、その自宅に在庫やカタログがあるわけではないし、被告がその自宅を所有していたり家賃を払っていたりするわけでもなく、かつ、在宅勤務者の意思で引っ越しも出来る、という状況では、在宅勤務社員の自宅を被告の『通常かつ確立した事業地』とすることは不適切、としました。

インターネット時代で、これからも在宅勤務者が増えていくことが予想されます。今回連邦巡回控訴裁判所が出した判断をふまえて、在宅勤務者の取り扱いを社内規定で明確にしておくのもリスク管理の一つとして良いかもしれませんね。


# by suziefjp | 2017-09-26 02:58 | 知的財産権

知的財産権のお話を中心に、たべもののこと、アメリカのこと、いろいろお話ししていきますね♪


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