「ほっ」と。キャンペーン

米国知的財産権日記

iptomodach.exblog.jp
ブログトップ

カテゴリ:知的財産権( 86 )

米国特許侵害裁判などのお仕事をしておられる方にとっては有名人のテキサス東部地裁のギルストラップ判事は、全国の連邦地方裁判所の中で最も忙しい判事の一人といっても過言ではありません。米国全土で新たに起こされる特許訴訟の4分の1以上がギルストラップ判事の担当になる、という話もあるくらいです。テキサス東部地裁は「特許権者寄りの判断をする」ことで有名なために、特許権者がわんさかテキサス東部地裁で特許侵害訴訟を起こすのですが、テキサス東部地裁で裁判をするために特許権者がペーパー会社をテキサス東部地裁の管轄地に作って訴訟をしている、というのもまた悲しい事実。そんな傾向にギルストラップ判事が「喝!」を入れた判決が2017年1月末に出ました。

米国では「例外的事件」と裁判所が認定すれば勝訴当事者は敗訴当事者から弁護士費用の回収等をすることが許されています。今回、ある特許トロールがどうもいまひとつの特許で和解金をせしめるためにデルやらアップルやらの名だたる企業を提訴したらしいのですが、これに対してデルが侵害主張が脆弱であるなどなどの略式判決を申し立て、ギルストラップ判事がデルの立場を認める判決を出したんですな。で、普通はここで終わるんですが、略式判決申し立ての中でデルが「この特許権者はそもそも特許権行使で和解金をせしめるためだけに設立されたペーパー会社で中身が無い、もし裁判所が例外的事件と認めてくれて弁護士費用の回収を命じてくれてもペーパー会社にそうした費用を賠償する資産がない」ということを指摘していたんですね。つまり、実際のその会社のオーナーである黒幕は和解金をまんまとせしめたらホクホク、もし負けて例外的事件として相手方の弁護士費用負担を命じられてもそれはそのペーパー会社を破産処理しちゃえば負担を逃れられて個人資産は守られて痛くもなんともなーい、それって許しちゃっていいんですかね?というところがクローズアップされたわけです。

で、略式判決後にギルストラップ判事がこうした問題について「判決後の証拠開示手続きをやる!」となりまして、出てきた証拠によると、この特許権行使会社の資産は問題の特許のみ、従業員ゼロ、和解金集めが目的、さらにオフィスの住所は黒幕オーナーが作ったほかの20社くらいのペーパー会社と共有、だから会社として家賃も払ってないのよーん、などの事実が出るわ出るわ。多分、同じようなことをしている特許トロールオーナーは他にもたくさんいると思いますが、今までこうした点について証拠開示をしよう!というチャンスが無かったので、こういう話が正式に表に出てくることが無かったんですね。

ギルストラップ判事は「これが『例外的事件』なかったら、そもそも例外的事件など存在しない!」として黒幕オーナー個人にデルへの弁護士費用支払を命じました。さらにこの特許トロールの代理人であった弁護士も懲罰対象として1万2500ドルの支払を命じられました。判決の中でギルストラップ判事は「こうしたしょーもない事件が裁判所の時間と労力奪ってしまって、真に解決されなければならない係争の障害になるのは由々しきこと」ということも言ってますから、しょーもない特許権行使には判事自身辟易していたのではないかと。。。ちなみにテキサス東部では同じ特許に関する侵害裁判は被告が違っても同じ裁判官に割り振られる(イリノイ北部地裁なんかはそういうシステムではなく、ばらっばらの裁判官にまずは割り振られます)ので、ギルストラップ判事はまだどういう人達が被告として残っているかを把握していることになります。そこで、今回お怒りになったギルストラップ判事が「この特許の侵害裁判でまだ係属中の他の被告に対して今回の私のこの判決のコピーを配りなさい」ということまで原告トロールオーナーに命じたとか。。。うわー、オーナー、恥ずかしー(笑)。

これで他のあやしげな特許トロールオーナーもおとなしくなってくれれば万々歳。正当な権利主張はとやかく言われるべきものではありませんが、こうしたスジの悪い権利主張にお上ががツンと喝をいれてくれるのは喜ばしいことです!

[PR]
by suziefjp | 2017-02-15 06:21 | 知的財産権 | Comments(0)
明けましておめでとうございます♪ 今年もゆるゆると細くながーく不定期更新でいきたいと思いますのでお付き合いいただければうれしいです。

年初は小ネタから。。。たまたまなんですけど、先日、ある方と話していたときに「え、そうなの?」と驚かれたので、これは小ネタとしてイケるか!?と思ってしまったのですが、「米国特許の登録日(issue date)は必ず火曜日」なのです。もしお手元に何か米国特許があれば登録日をカレンダーでチェックしていただければ、絶対火曜日のはずです。

なんで火曜日か、は、私も聞いてみた事があるのですが、みんな「さあねー。」でした。ある人は「昔はやっぱり全部印刷だったから、金曜にしめて印刷にまわして、で、印刷があがるのが火曜日だったのかなあ。」という人も。真偽はさだかではありませんが、なんだか今でも「特許の登録日は火曜日」というのが伝統的に残っています。

小ネタとして飲み会とかで使っていただければ幸いです♪
[PR]
by suziefjp | 2017-01-06 05:37 | 知的財産権 | Comments(0)
前回、日本企業にとってあまり楽しくない上訴事件の報告をさせていただきましたが、2016年を何か元気が出るかもしれないニュースで締めたいもんではありませんか♪と、いうことで、同じ上訴受理でも日本企業にとって良いニュースをお届けします。

2016年12月14日に最高裁判所が TC Heartland v. Kraft Food Brands Groupという事件の上訴を受理しました。ここで争われているのは「特許侵害事件において、被疑侵害者(被告)はどこで提訴され得るのか」です。皆様ご存知のとおり、現在はざっくり言ってしまうと被疑侵害者は被疑侵害品が販売されている州で提訴され得ます。広く販売されている製品であればアメリカの殆どの州で提訴され得ることになり、したがって特許権者寄りの判決が出やすいとされるテキサス東部地裁が特許権者(特にパテントトロール)に大人気を博してきたものです。データによると新たに開始される特許侵害裁判のうち半分近くがテキサス東部地裁で提訴されているらしく、テキサス東部地裁のギルストラップ判事はアメリカで最も担当時件数が多い連邦判事としても有名です。

今回の上訴では、やはりテキサス東部地裁で訴えられた被告がやってらんねーよ、と、この点を争ったかと思いきや、この上訴事件にはテキサス東部地裁がかかわっていないのがヒネリですな。この事件ではインディアナ州法人である被疑侵害者がデラウェア州で提訴され、それってどーなんですか、っていうのが最高裁判所まで上がってきたものです。
特許侵害裁判については連邦訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure)の1400条に特別の規定があり、「Any civil action for patent infringement may be brought in the judicial district where the defendant resides, or where the defendant has committed acts of infringement and has a regular and established place of business.」と定められています。この「resides(居住する)」がある判決から「その州が人的管轄権を持つならその州に居住とみなす」とされてきたために、その州で被疑侵害品が販売されていればその州で提訴され得る、となっていたわけです。

今回の上訴で被疑侵害者は「法人にとって居住するとはその州で設立されたことを意味する」と主張しています。もし最高裁判所がこの被疑侵害者の考え方を採用すると、これまではテキサス東部に集中していた特許侵害裁判が、今度は会社設立が多い場所としてよく知られるデラウェア州に集中する可能性があります。一般に、デラウェア州の判事は非常に中立で「特許権者寄り」ということはありません。優秀な判事さんもたくさんおられ、IPR係属中の訴訟一時停止にもオープンですので被疑侵害者にとってはやりやすい裁判地といえます。

さてさて、さらば、テキサス東部地裁となるか!?いや、別にテキサスでもいいんですけど、要はいいがかりみたいないい加減な特許侵害主張が減少するのであればテキサスでもデラウェアでもいいんですよね。。。テキサス東部を離れることで、いい加減な特許侵害主張に対して訴訟初期の取り下げ申立がしっかり検討してもらえて有効な対抗手段となるのであれば、それが一番です。

この事件と前回おしらせしたハーグ条約の件は、最高裁がどう判断するかドキドキです~~!
[PR]
by suziefjp | 2016-12-29 07:26 | 知的財産権 | Comments(0)
お久しぶりでございます。しばらく時間が空いた間にトランプ氏が大統領選挙で勝っちゃったりして、なんだかもうエライことです。

そんなエライところにまたしてもエライことになるかもしれないことが起きてしまいました。知財事件に限らず、労働問題でも契約違反でもなんでも、日本企業をアメリカで提訴することがとっても簡単になってしまうかもしれません。と、いうのは12月2日に米国最高裁判所が国際訴状送達に関するハーグ条約の解釈を求める上訴を受理しちゃったんです。事件はWater Splash, Inc. v. Menon (No. 16-254)で、もともとはアメリカの会社がカナダの個人をビジネス干渉他を理由に訴えたものです。アメリカの会社が訴状をカナダに郵送したのですが、返事がなく、欠席裁判で企業有利の判決になったのですが、カナダの個人が郵送による訴状送達は無効として欠席裁判判決の取り消しを求めた事件で、「郵送による訴状の送達はハーグ条約で認められているか」という問題が最高裁判所に上がってしまったものです。

ご存知の方も多いと思いますが、米国裁判所で日本企業を訴えようとすると、ハーグ条約にもとづく訴状送達をせねばならず、日本の裁判所経由で翻訳を提出して、、、としている間にお金も時間もかかるため、特許侵害裁判だと被疑侵害品を販売している米国子会社だけが訴えられることがよくあります。特許権者は日本親会社を提訴しないことで面倒なハーグ条約の手続きを省略できるのですが、証拠開示手続では製品設計等の技術情報はすべて日本の親会社が持っていて技術情報を米国子会社経由で入手するには制限もあり、侵害立証が難しくなってしまうというデメリットがあります(米国の多くの判例で、子会社が親会社に書類を全部出せ、というのはさすがに限界があるよね、という点が認知されています。さらに日本は訴訟証拠提供のハーグ条約には批准していないので、訴訟当事者ではない日本の親会社に直接書類提出を要求する手段が米国の特許権者にはありません。)実務において、この点を利用して日本親会社がもつ資料を証拠開示手続きで出さないよう争ったご経験をお持ちの方もたくさんいらっしゃるかもしれません。

ハーグ条約の10(a)条では「Convention shall not interfere with (a) the freedom to send judicial documents, by postal channels, directly to persons abroad」とあり、批准国が10(a)条を明示的に拒否しなければ10(a)条が適用されます。日本は拒否していませんので、日本在住の企業を米国で訴える場合、郵送で送達できるのでは?という説が出てくるわけです。現在は米国の判例でもこの「send(郵送)」は「serve(送達)」を含まない等の諸説があり、郵送による訴状送達の可否が明確ではありません。さらに日本法はそもそも職権送達主義(=国内訴訟の訴状送達は裁判所によりなされなくてはならない)であり、10(a)条が郵送などによる当事者送達主義を認めるものであったなら日本は拒否していたでしょうよ、拒否してないってことは違うんですよ、的な立場で、日本は10(a)条を解釈してきたのかもしれません。

今回、米国最高裁判所がこのハーグ条約10(a)条の解釈をすることになってしまったので、「郵送オッケー♪」と解釈されると、米国訴訟における日本企業への訴状送達がものすごく簡単になり、ひいては米国で日本企業を提訴することがものすごく簡単になります。すると、特許侵害訴訟ではこれまでの米国子会社のみを訴えるアプローチから日本本社を訴えるアプローチに切り替わる可能性もあり、そうなると、日本本社が証拠開示手続に当事者として対応しなくてはならなくなります。もし郵送された訴状に対応しなければ、欠席裁判となり、相手方が求める要求どおりの判決となってしまう可能性もあります。

最高裁判所が扱う事件では、第三者がいずれの立場を支持するか、を表明するためのamicus briefの提出が許されているので、今回の事件でもたくさんの法曹団体や企業がamicus briefを提出することが予想されます。しかしこれ、条約の話なのに、勝手にアメリカで解釈しちゃっていいの??というのがどうしてもひっかかる!日本の外務省、これ、いいんでしょうか?日本国内法(=職権送達主義)とも齟齬が出る可能性がありますし、どーすんの??なんか国際条約を「アメリカで解釈決めちゃっていーじゃん。」って、アメリカっぽいけど納得できない。。。

日本企業でも、大きな影響を受けるご心配がある場合はアメリカの弁護士さんに相談なさってamicus briefの提出をご検討なさるのも良いかもしれません。この事件の最高裁判所の判断は必ずまた報告したいと思います!
[PR]
by suziefjp | 2016-12-08 05:39 | 知的財産権 | Comments(0)
今更感もありますが、いまだにドメインネーム詐欺が横行しているようです。
特に中国の政府系機関を装って:
「我々は中国政府からドメインネーム登録手続きを請け負っている機関です。この度、○○.cnというドメインネームの登録申し込みがありましたが調べてみたところ、御社が所有している商標がこのドメインネームの大部分(○○該当部分)に使用されているようです。そうした場合、我々は商標権者に連絡するよう義務付けられています。
もし御社がこうしたドメインネームの登録を許可した、などの事情があったり、その他本件の解決について何かあればすぐご連絡下さい」
みたいな英文メールが突然やってきます。これに返事してしまうと、登録させない代わりに金銭の支払を要求されたり、あるいは「しめしめ、この会社は商標権保全のためにお金を出すようだぞ」などと思われて別の攻撃をしかけられたりする可能性があるので要注意です。このような意味不明のメールを受領したら、社内で法務部や知財部にすぐ連絡をして勝手に返事しないように、と徹底しておくことが大切です。

そういえば弁護士事務所側をひっかけようとする詐欺メールもすごい多いんですよ。例えば日本に実際に存在するそれなりの会社名で、「知財問題があって知財弁護士を探しています。もし貴所が弊社を代理できるならすぐ連絡下さい」みたいなメールが英文で来ます。これ、仕事を探していて、日本のことをあまり知らない弁護士さんだったら返事しちゃうかもしれませんよね。こうしたメールの特徴は日本の実在の会社名を語りつつ、発信人が社長名でGメールアドレスだったりします(笑)。いやいや、こんなそれなりの会社でしゃっちょさんが自らそんなメールをプライベートメールで出さんわな、ってな感じです。でも、有価証券報告書とかもともとの実在のウェブサイトで社長名見つけて、その社長名でG-mailとか設定してわざわざやってんだな、と思うと、その情熱をどこか別のところに向ければいいのに、と思わずにはいられません。

この手の詐欺はほんとやり切れんですねー。くれぐれもひっかからないようにご注意を!
[PR]
by suziefjp | 2016-08-09 05:21 | 知的財産権 | Comments(0)
2014年12月に「IPRの調べ方」記事で、IPRの状況について検索できる特許庁のデータベースのお知らせをしておりますが、あのポータルが変更になっていますので、アップデイトしておきますね。現在は、こちらのウェブサイトから以前と同様に検索できます。検索自体はログインとかしなくても大丈夫です。I am not a robotのチェックマークを忘れると検索できませんので、お忘れなく!(チェックマークするだけで検索できるときもあるんですけど、なんか写真とか出てきて「この中から「木」の写真を全部チェックしなさい」みたいなテストで「ロボットじゃありませんよ」チェックをされるときもあります。)

取り急ぎのアップデイトでした!
[PR]
by suziefjp | 2016-07-26 05:15 | 知的財産権 | Comments(0)
相変わらず大人気のIPRですけれども、実はIPRに関して最高裁まで上訴されている問題がありました。それは①IPRにおいて請求項の解釈基準として適用されている「Broadest Reasonable Interpretation」(BRI)は適切か。裁判所における請求項解釈基準と統一すべきではないか、②IPRを実施するか否か、というPTABによる決定は現在控訴できないが、控訴できるようにすべきではないか、の2点でした。

今回、この2点が最高裁判決で明示されたのですが、原文をご覧になりたい方はこちらからどうぞ。結論としては、①IPRではこれまで通り、BRIを適用して特許の有効性を判断する、②IPRを実施するか否か、という決定は控訴できません、ということで、現状維持となりました。

IPR人気の理由の一つは①の「BRI」基準です。この基準のために特許が無効化されやすいんですね(=請求項の範囲が広いと先行技術も見つかりやすいので)。この基準の適正について疑義を呈した側は「審査中はこの基準であっても請求項を修正する機会があるから良いけれど、IPRでは請求項の修正が許されることは稀で、だとするとBRIを適用するのはアンフェアだ。」と。最高裁としては、「いやー、でもさー、特許庁の請求項解釈基準はもう100年ずっとBRIなんだし、それでいーじゃん。」と、まあ、そこまで軽くいいませんが、そんな感じです。加えて「請求項が広すぎる特許は公共の利益にならないし、そういう意味では不適切に範囲が広すぎる特許がPTABのプロセスで駆逐されることには意味がある」てな感じのことを言っています。

裁判所で特許の無効性を争う場合、ご存知の方も多いと思いますが、まずはマークマン・ヒアリングなる手続きで請求項解釈を行います。ここでは明細書等に照らして当業者であれば通常どのようにその請求項を解釈するか、といった基準で解釈され、必ずしもBroadest、「最広義」に解釈することにはなりません。

とりあえず、今回の最高裁判決でまだしばらくIPRの人気は続きそうです。
[PR]
by suziefjp | 2016-06-21 06:32 | 知的財産権 | Comments(0)

アリス判決その後 

米国特許を扱う方は皆さんご存知であろうアリス判決、正確には「Alice Corp. v. CLS Bank International」判決といいますが、これは2014年の最高裁判決です。この事件では「そもそも特許として保護され得る対象物って何なの?」というのが争われました。ある種のコンピュータープログラムに関する発明は米国特許法101条にいう特許として保護され得る発明に当たらなず、そうした発明の特許は無効、というようなことが最高裁によって明示されたものです。
アリス判決で問題になったのは決済リスクを軽減する金融取引に関するコンピュータープログラムでした。このプログラムが「抽象的概念」に過ぎず、特許として保護され得ない、と判断されたものです。この判決が出た直後、コンピューターソフトウェアに関する特許が取りにくくなるぞー、とか、たくさんのコンピュータープログラムに関する特許がこれから無効化されるぞー、とか大騒ぎになりまして、で、今もその余波は続いています。

実際にこの判決後、特許トロールがコンピュータープログラムに関する特許で訴訟を仕掛けたときに、被告が訴答を提出する前に「そもそも侵害主張された特許は特許法101条に該当する発明ではないのでこの特許は無効である、よってこの訴訟は取り下げられるべき」という取り下げ申し立てをするケースが増加しました。そして米国特許庁としても、何は特許保護の対象になり得て何はなり得ない、ということを明確にしないと審査官も出願人もみんな困っちゃうよね、ということでちょこちょこ「何は特許として保護され得るよ」という点についてのガイダンスを発行しています。

2016年5月4日付で、また最新の審査官向けガイダンスが出ました。タイトルはあえて日本語で言うと「特許事由適格性にもとづく拒絶の考え方と、そうした拒絶通知に対する出願人回答の評価方法」ってところでしょうか。ポイントとしては、特許事由適格性要件は、まず、出願にある発明が特許法101条で特許保護の対象とされる「process, machine, manufacture, composition of matter、もしくはその改善されたもの」に当たるか否か、を判断せよ、とのことです。抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物、はそれに当たらないのでダメですよ、と。で、101条にもとづく拒絶通知の発行にあたっては、出願のどの部分がそういう抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物に該当するのか、ちゃんと書きなさいよ、と。まずこれが第1ステップです。

で、第2ステップとして、出願にある「抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物」以外の要素を個別に、あるいは組み合わせて勘案しても、出願にある発明は抽象的なアイデア、自然法則、自然現象、自然の産物以上のものにはなり得ないかを判断せよ、とのことです。

なお、こうした判断をするにあたって、審査官がテキトーに決めてしまわないように「これまでに判例でどういったものが抽象的アイデアだと判断されたか、のまとめ表を作ってあるので、それを見ながら判断するように」と、ちゃんとガイドラインを設定しています。こういうのは便利なので、いつまでリンクが有効か、の不安はありますが、できるだけリンク貼っておきますね。これまでにも米国特許庁は何がprocess, machine, manufacture, composition of matterに該当するのか、の例も発表してますし、あと、特許アウトな抽象的アイデア例特許アウトな自然の産物例、も発表していますのでご興味ある方、実務に関連ある方はぜひご覧になってみてくださいね。

ちなみにDocket Navigatorという会社が出している2015年の年間統計の一つとして「特許侵害訴訟における101条にもとづく特許無効申立の成功率」データを出しているのですが、それによると、全国平均で成功率は56%だったそうです。2015年には特許侵害訴訟における101条ベースの無効申立が全国で200件ほどあったみたいですが、そのうち100件以上が成功、とな。訴えられる方からみたら悪くない数字かなー、と思います。
[PR]
by suziefjp | 2016-05-20 06:50 | 知的財産権 | Comments(0)
今日、最高裁がLachesディフェンスが特許侵害事件で許されるべきか、について決定をするぞ、という決定をしました。Lachesっていつも良い翻訳がなくて、そのまま「ラッチェス」と言ったりするのですけど、意味は「特許権者が被疑侵害を知りつつ、侵害に対してアクションを取るのがすごーく遅れたら損害賠償回収できませんよ」というものです。

で、なんで今これがすごく注目されてるか、といいますと、著作権法との整合性の問題です。最高裁判所が決定したPetrella事件では、最初の著作権侵害から18年たって侵害訴訟が起こされました。で、連邦地裁と控訴裁は「18年は遅すぎ!」ということで略式判決で訴訟裁判を取り下げました。これに対して最高裁は「いやいや、著作権法は507条で明確に『侵害から3年以内に裁判しなさい』と書いてるじゃないの。だから、提訴の日から遡って3年以内に発生した侵害行為についての損害賠償をLachesディフェンスで逃れようたって、そうはいかねえぜ!」と判示しました。すなわち、著作権侵害においてlachesディフェンスの適用は否定されたわけです。

さてこれとは別にある特許侵害事件があり、そこでは特許権者が最初に侵害催告をした後、被疑侵害者に「こうした先行技術に照らしてこの特許は無効だと思いますが」と言い返され、それから約7年経過してから特許侵害訴訟を提訴しました。被疑侵害者は特許法282条の防御の一つとしてlachesを主張し、提訴の日以前に発生した侵害に関する損害賠償は回収不可であることを主張し、連邦地裁はこれを認めました。これに対して特許権者は「特許法286条では提訴の日から6年超遡って損害賠償を回収することは不可、と明示している。著作権法における最高裁のPetrella判決を勘案すると、こうして法律で6年と明示されている以上、6年の損害賠償回収は許されるべきで、著作権法と同様にlachesによる防御は特許法でも許されるべきではない」と主張し、この問題について連邦巡回控訴裁判所が昨年秋に決定を下しました。

連邦巡回控訴裁判所は、特許法286条(損害賠償の回収を6年に限定)は282条(lachesを含む色々なディフェンス)とは相反するものではないし、特許侵害についてlachesディフェンスにもとづいて提訴の日以前の損害賠償回収を許さないことはPetrella事件と整合性を欠くものではない、と判示しました。今回、この事件が最高裁まであがり、最高裁が「特許侵害事件においても著作権法と同様にlachesディフェンスによる損害賠償回収の否定は許されるべきではない」とすべきか否か、を決定することになります。

表面だけみるとなんだかややこしいんですけどね、実は連邦巡回控訴裁判所は良いポイントを明確にしているんですよ。著作権法507条は「侵害から3年以内に提訴しないとダメよ」という「時効」を規定している一方、特許法の286条は「提訴の日から6年超遡って損害賠償は回収できないよ」という救済措置の範囲を定義しているに過ぎず、時効に関する規定ではありません。ですから、連邦巡回控訴裁判所は282条におけるディフェンスの一つとしてlachesがあり、アクションを取るのが遅れた人は提訴の日以前の損害賠償回収はできませんよ、という内容と286条は全く問題なく並存できるものであるし、さらに時効を定めた著作権法507条と、損害賠償の範囲を限定するにすぎない特許法の282条、286条は性質を異にするものであり、282条のlachesを適用して提訴以前の特許侵害に関する損害賠償を否定することは、最高裁のPetrella判決に反するものではない、としたわけです。

なお、最高裁はすでに商標法ではlachesは有効なディフェンスである、と判示しています。米国の著作権法、商標法、特許法を比較すると、実は時効の規定があるのは著作権法だけです。その代わり、著作権法には特許法にいう286条(6年限定)や282条(laches含むディフェンス)のような損害賠償限定の規定がありません。そして商標法は著作権法と特許法の間のような形で、時効の規定がなく、特許法286条(6年限定)の規定もなく、ただし特許法282条(laches含むディフェンス)類似の規定が存在します。

さて、こうした状況で最高裁は特許法のlachesディフェンスについてどんな決定をするのでしょうか?個人的には、時効がない特許侵害についてはlachesによる損害賠償の限定を認めるべきだと思いますし、そのことがPetrella判決にそぐわないものだとは思えません。最高裁での決定までに、おそらく色々な企業や法律協会がそれぞれの意見を最高裁に提出すると思います。特許トロールに攻撃されるような大企業は被疑侵害者が主張するように「特許侵害におけるlachesディフェンスは維持されるべき」という意見書を出すでしょうし、特許権を主張したい人達は「Petrella判決に照らして、特許法におけるlaches主張による損害賠償限定は許されるべきではない」という意見を出すと思います。

最高裁判決が出たら、またここで報告させていただきますね!
[PR]
by suziefjp | 2016-05-03 05:27 | 知的財産権 | Comments(0)
アメリカでいわゆるPatent Attorney、特許弁護士と名乗るには二つの試験に合格しなくてはいけません。一つはいわゆるBar Exam(弁護士試験)、そしてもう一つはPatent Bar Examです。この二つに合格した人だけがPatent Attorneyです。Patent Bar Examは大学で理系の学士を持っていないと受験できません。Patent Bar Examに合格してないけど、知的財産権まわりの訴訟とかいっぱいやってるんですよー、という弁護士さんはよくIntellectual Property Attorney(知財弁護士)という風に自らを位置づけているようです。そしてPatent Bar Examしか合格していない場合はパテント・エージェントとなります。

パテント・エージェントは米国特許庁に特許出願手続きをしたり、ということが出来るわけですが、これまでに明確ではなかったのが「パテント・エージェントと依頼人間のやりとりがプリビレッジ(弁護士依頼人間秘匿特権)の対象になるのか」という点でした。これ、実は管轄地によってバラバラで、ある裁判所は「対象になる」といい、別の裁判所は「ならない」という。。。プリビレッジは日本からいただくご質問が多いトピックの一つで、あるやりとりが裁判手続きにおけるディスカバリで開示対象になるのかならないのか、というのは非常に気になる問題なんですね。

今回、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が「In re: Queen's University at Kingston」という判決でこの点を明示しました(リンクはCAFCのウェブサイトなんで、時間がたつと見れなくなっちゃいます。オピニオンが見たい方は早めにダウンロードしてくださいね!)。結論から言うと、「出願業務に関するパテント・エージェントと依頼人とのやりとりはプリビレッジで保護されるが、それ以外の業務に関するやりとりはプリビレッジの保護対象とはならない」ということが明示されました。ですから、無効鑑定とか特許侵害訴訟に関するパテント・エージェントとのやりとりはプリビレッジで保護されず、ディスカバリで要求されたら開示しなくてはいけません。

これまでは100%安全にしようとすると、出願業務についてもパテント・エージェントに弁護士の監督下で業務をしてもらうことでプリビレッジをかけてたんですね。少なくとも今後は出願に関してはそうした弁護士さんの監督がなくてもプリビレッジがかかることが明確になりました。一方、出願業務以外に関しては、ディスカバリ対策としては、パテント・エージェントさんにお仕事をお願いする場合にはやはりアメリカの弁護士さんの監督下で業務をしてもらってプリビレッジの保護をかけてもらう、ということになるかと思います。

プリビレッジの問題はビミョーで、例えば日本の弁護士さんとのやりとりがアメリカの裁判におけるディスカバリでプリビレッジで保護されるか、についてもいまだ明確になっていません。ある裁判所は「保護される」、ある裁判所は「されない、アメリカの弁護士とのやりとりだけがプリビレッジの対象」という立場だったりします。アメリカの特許侵害訴訟対応にあたって、日本の弁理士事務所や弁護士事務所に間に入ってもらって、、、という日本企業さんもたくさんあると思うのですけど、そうした弁理士事務所や弁護士事務所で間に入ってくださる先生がアメリカの弁護士資格を持っているのか、というのは確認しておく方が安全かと思います。アメリカの弁護士資格をお持ちであればプリビレッジは間違いなくかかるので安心です。一方、アメリカの弁護士資格をお持ちでない場合、裁判所によっては「そうした日本の先生とのやりとりはプリビレッジの対象ではないのでディスカバリで開示せよ」という立場を取る場合がありますからご用心下さい。対策としては、その裁判地や担当裁判官がこれまでに海外の弁護士さんや弁理士さんとのやりとりについてどういう立場をとっているのか、をあらかじめ調べておくのが良いでしょう。もちろん、事件を担当するアメリカの弁護士事務所は「日本の弁護士や弁理士と依頼人とのやりとりはプリビレッジの対象であり、ディスカバリでの開示義務は無い」という立場をとるはずです。その立場が強いものなのかどうか、が、裁判地、担当判事に左右されるので、確実に安心したい方はアメリカの弁護士資格をお持ちの日本の弁護士さんや弁理士さんに間に入ってもらうか、あるいは直接アメリカの弁護士とやりとりするか、あるいは判例を調べてその裁判地、担当裁判官が外国の弁護士さんとのやりとりもプリビレッジの対象となるという立場をとっていることを確かめておく、という作業が必要になります。

たかが(?)プリビレッジ、されどプリビレッジ。いやあ、深い。
[PR]
by suziefjp | 2016-03-12 07:46 | 知的財産権 | Comments(0)

知的財産権のお話を中心に、たべもののこと、アメリカのこと、いろいろお話ししていきますね♪


by suziefjp