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米国知的財産権日記

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テキサス東部地裁よ、さらば!

さて、2016年12月に「テキサス東部地裁よ、さらば!...になるかもしれない」編で紹介させていただいた米国最高裁判所事件、判決が出ましたですよ!この裁判の背景は前述の「なるかもしれない」記事でご覧下さい。

で、肝心の最高裁判所決定はこちら でご覧いただけます。最高裁判所のウェブサイトがこの意見書を掲載している間にご覧下さい♪結論から言うと「被疑侵害品が販売されている場所ならどこでも被疑侵害者を提訴できる、ってのはダメっしょ。」ということになりましたーーー!ひゅーひゅー!!「これからどないすんねーん!」と思っている特許トロールの皆さん、残念でしたな。あっはっはーーーー!!

少しおさらいですが、この事件で問題になっていたのは米国民事訴訟法1400(b)条にある「Any civil action for patent infringement may be brought in the judicial district where the defendant resides, or where the defendant has committed acts of infringement and has a regular and established place of business」の「resides」をいかに解釈すべきか、という問題でした。この条文によると、特許侵害裁判は①被告が居住する(resides) 場所、または②被告が特許侵害行為を行い、かつ、通常の確立した事業場所を所有する場所、のいずれかで提訴されなくてはなりません。これまでは①にある「resides」が非常に広範に解釈され、「被疑侵害品が販売される場所ならオッケー」みたいになっていたわけです。で、今回、最高裁判所が「ちょいちょいちょい、それは無いわ。「resides」、居住する、とは被告の設立登記地のことよ」と明示しました。よって今後の裁判は、被疑侵害者の設立登記地、もしくは②の「被告が特許侵害行為を行い、かつ、通常の確立した事業場所を所有する場所」でのみ可能、ということになります。テキサス東部管轄地区にお店や事業所を持ち、そこで被疑侵害品を販売しちゃう方は②に該当するので「なんだよ、じゃあ結局テキサス東部から逃げられないじゃん」というのはあります。でも、これまで、テキサス東部管轄地区にお店も会社も営業所もない、つまり、なーんの縁もゆかりもないのに、なんでここで訴えらねばならぬのだ!?だった被疑侵害者にとっては、やはりこの最高裁判決は大きい!

被疑侵害者の会社や事務所が所在するホームグラウンドでの裁判を特許権者が回避しようとするならば、今後の特許侵害裁判は被疑侵害者の設立登記地(設立登記地として人気のデラウェア州など?)で多発するかもしれません。デラウェア州には連邦地方裁判所が一つ(北部、とか東部、とかは無いです)なんで、デラウェアに訴訟が多く持ち込まれるようになると判事が忙しすぎて訴訟進行が遅れるようになるかもしれませんね。この最高裁判決が出たのが5月22日の月曜なんですけど、それ以降の新たな特許侵害訴訟を見てると、見事にテキサス東部地裁以外で訴えられてます。ぱっと見た感じですが、やっぱりデラウェアが多い感じですかねー。

ここでちょっと考えてしまうのは、もし日本企業さんが被疑侵害者で、特許権者がその日本企業さんの在米子会社を被告に入れずに日本企業さんだけを訴えようとした場合はどうなるの?という点です。(在米子会社を共同被告に入れる限り、その在米子会社の設立登記地、もしくはその在米子会社が「通常の確立した事業場所を所有する場所」にひっぱられると思います。)もしアメリカで設立登記もしてないし、事業所とか支社とかもなーんにもない日本企業を訴えようとしたら、特許法上の侵害行為がどこで発生したのか、を見ることになるのかなー、と思います。米国特許法271条で直接侵害行為として定義されているのは「makes, uses, offers to sell, or sells」もしくは「 imports」なので、日本企業によるこうした行為がどこで発生したか、を同定し、その場所が管轄地になるのかと思います。ぶっ飛び特許権者が「被疑侵害品のユーザーが被疑侵害品を使って侵害行為を行った場所であればどこで提訴しても良い」と、間接侵害にもとづいて自分に有利な裁判地で提訴する、っていうこともあるかもしれません。特許侵害訴訟の訴因って、(A)直接侵害のみ、(B)直接侵害+間接侵害、(C)間接侵害のみ、の3つが論理的に考えられますが、これまでも「(C)間接侵害のみ」で来るケースは珍しいんですよ。理由はおそらく侵害立証が難しい(=客がどう使うか、による)、損害賠償算定が難しい(侵害になるよう使用された被疑侵害品のみが損害賠償対象なので、その被疑侵害品数の同定が必要)というためかと思います。だとすると、やはり特許権者、特にさっさと和解金を稼ぐことを目的とするような特許トロールは、(A)もしくは(B)で攻めたいところで、提訴地の自由を優先して(C)のみで来る、というのはそれこそ初期の取下申立とかで対抗されそうでなんで、避けるんじゃないかなあ、という気はします。

ま、これまでのテキサス東部への集中が異常でしたからね。今回の最高裁判決でテキサス東部地裁での提訴が難しくなるため、しょーもない訴訟が減るのでは、という意見も出てきているくらいです。とりあえずは「良いニュース」ということでよかったのではないでしょうか♪

by suziefjp | 2017-05-26 01:08 | 知的財産権

知的財産権のお話を中心に、たべもののこと、アメリカのこと、いろいろお話ししていきますね♪


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