米国知的財産権日記

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特許侵害の損害賠償はLaches防御では防ぐことができません。。。

去年の5月に「最高裁:特許侵害に対するLaches防御やいかに!?」で最高裁が特許侵害に対する防御の一つであるLachesについて検討中、という報告をしました。問題の詳細は5月の記事をご覧いただくのが良いんですが、結論からいきますと、最高裁が「Lachesは無しよーん。」と2017年3月21日に決定してしまいました。。。がーーーん!決定の意見書はこちらからどうぞ(リンクが無くなる前にごらんくださいね。)

ずーっと特許をやってると、やっぱりたまにあるんですよ。最高裁、それ、なんか違うくね?みたいな決定が出る時って。今回の判決もまさにそんな感じです。現在、最高裁の判事は8名ですが、7対1で「Laches無しよん」と決定されました。よって特許権者がものすごく出遅れて訴訟してきても、そこから6年遡った損害賠償回収は許されることになります。もし「Lachesは今後もありよん」と今回決定されていれば、ものすごく出遅れてきた訴訟に対してそこから遡っての損害賠償の回収は不可、とすることが可能であったものです。

この業界におられる方には、ぜひただ一人反対したBreyer判事の反対意見書(dissent。多数派の意見書の後に続いて掲載されています)を読んで頂きたい!ここに言いたかったこと、分かってほしかったことが凝縮されているんです!なんでBreyer判事はこんなに明快に分かってくれたのに、多数派の判事にはこれが分からなかったの??と思わずにはいられません。多数派の意見はAlito判事が書いてますが、先に結論ありきで、そこに向かってこじつけてみましたがいかがざんしょ?な感じがしなくもない。しかもポコポコ書き間違ってるし。(重箱の隅をつつくのが好きな方向け:意見書2頁目上から3行目「its patent」と斜字体で「First Qualityの特許である」と強調してますが、ここで引用されている特許はFirst Qualityの特許じゃなくて日本が誇る花王さんの特許なんですが。。。さらに意見書16頁目15行目「equitable estoppel bars First Quality's claims」は「SCA's claims」。当事者名を間違うって、どんだけ聞き流して結論ありきだったのさー、っていう感じが。。。)多数派は「著作権に関するPetrella事件判決が特許法にも適用する」と、どうしても持って行きたかったみたいで、その正当性を終始意見書で述べているような印象です。

少しおさらいしますと、Petrella事件では最初の著作権侵害から18年たってから侵害訴訟が起こされました。で、連邦地裁と控訴裁判所は「18年は遅すぎるでしょ」と権利行使を否定したわけですが、最高裁は「著作権法507条が『侵害から3年以内に裁判しなさい』と書いてるんだから、提訴の日から遡って3年以内に発生した侵害行為については権利行使が可能で損害賠償の回収を認めるべき」としたものです。著作権法507条は「侵害から3年以内に提訴しないとダメ」という提訴タイミングに関する時効を規定しているんですね。

一方、著作権法と異なり、特許法には「侵害からいつまでに提訴しないとダメ」という提訴タイミングを限定する規定がありません。だから10年後でも20年後でも提訴できてしまいます。そうした提訴期間の制限は無いのですが、特許法286条は「提訴の日から遡って6年までの侵害行為に関する損害賠償しか回収できませんよ」と定めています。つまり、286条は損害賠償の限定に関するものであって、提訴に関する時効を定めたものではなく、今回の争点はここにあったわけです。反対意見を書いたBreyer判事は「特許については提訴時効がないから、10年、20年待って特許技術が有効に利用されて成功するのを待ってからでも提訴ができる。そしてその時には被疑侵害者は散々設備投資等も行っていてその技術を回避することが出来なくなっている可能性が高く、ロックインされてしまう。そしてそんな風に何もしないで待った特許権者に対して、lachesを否定して過去6年分の損害賠償の回収は許される、とするのはおかしい。著作権法は特許法にくらべて随分最近成文化されたものであるから、そうした事象も勘案して例えば3年分の損害買収回収においても『被疑侵害者による貢献分』を損害賠償の算定において除外することが成文化されている。しかし特許法にはそうした『被疑侵害者による貢献分』を除外する規定も無い。そうしたことからも立法府が286条の損害賠償回収期間限定に加えてlachesの適用で不適切な権利行使を防ぐことを意図していたことは明らかではないか」と述べておられます。私もそう思う!!Breyer判事は「損害賠償は6年遡りますよ」という規定はあるが、提訴時効に関する条文は特許法になく、このギャップを埋めることを期待されているのがlachesである、という主張に賛成しています。

しかし多数派は、6年の損害賠償回収限定があればよく「特許法に『埋めるべきギャップ』はない」という立場です。どう読んでもBreyer判事の反対意見のほうが論理的にすわりがいいんですよ。多数派は「Petrella判決が特許法にも適用する」ことを前提で論理展開しているので、読んでいてあまり気持ちが良くないのは私だけでしょうか。。。どんなに後だしジャンケンをされてもそこから6年遡って損害賠償を支払わなくてはならない、というのが多数派の立場です。一応「禁反言」(エストッペル)という法理論で後だしジャンケンに対抗することもでき、多数派は「エストッペルがあるからいいじゃん」ということも言っています。これに対してBreyer判事は「多数派が言うように、エストッペルが大活躍してくれることを切に願う。」と意見書に記しています。

今回のケースでこの業界におられる皆さんがすぐに思うのは「また特許トロールが調子に乗る」ということですよね。。。うまくいけば待ちに待っても6年分の損害賠償が回収できるぞ、やほほーい!と思っている特許トロール(プラス、「じゃあ僕もトロールになろうかな♪」と考える予備軍)がきっと今頃たくさんいるんでしょう。しかも待ってもあまり悪影響が無いわけですから、特許技術がガンガン使用されるのを待ってから権利行使しよう、という人も出てくるかもしれません。せっかくちょっとトロールっぽい人達がおとなしくなりつつある感じなのに、こういう判決は切なくなります。。。あー、残念!



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by suziefjp | 2017-03-24 06:49 | 知的財産権 | Comments(0)

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