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米国知的財産権日記

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知財活用も無理は良くない・・・・

まだ出張「前」の準備なのに、バタバタして結構がんばっていたブログがちょっと留守になってしまいました。くやしいなあ。こんなんじゃあ、出張中はどーすんだ!?

しかし、何事も無理はよくありません。続きませんもんね(言い訳)。なので細く長くやっていきたいと思います。無理はよくない!

無理はよくない、と、言う話で思い出すのは、最近ご相談の多い日本の研究機関や大学関係の海外への技術移転です。この背景として、日本の大企業より海外の企業のほうが対等なパートナーとして大学や研究機関をあつかってくれて、買い叩きもしない、というウワサも聞きます。助成金がガンガン削られている中で、かつての国公立大学も大学も独立行政法人としてお金を儲けなきゃいかんわけですが、企業側にとっては大学や研究機関に対しては「研究・教育が本分でしょ?お金儲けるより社会への貢献でしょ?」という認識が残っているのかもしれません。だから共同研究費も、「対価」、というよりは、「謝礼」というくらいの気持ちで金額を考えちゃうのかもしれんです。アメリカの大学だったら「おととい来やがれ!」という金額かもしれません。もしそうだったら、正当な「対価」という考え方に切り替えないと、どんどん日本の基礎研究成果が海外に出ちゃって、日本の技術が空洞化しちゃいますよ。危ないなあ。

おっと、今日の話は「無理はよくない」でした。日本の企業側の対応よりも大学、研究機関側の動きで心配なのは、技術移転なんてすぐに出来る話じゃないのに目標が高すぎる、というか、実行可能な目標になってないんじゃないかなー、というところです。実行(アクション)は、戦略に従って起こすわけですが、いくつか戦略に選択肢があるとき、何を軸にして戦略を選ぶか、というと、実行性(feasibility)と効果(impact)のニ軸です。難しく考える必要はなくて、この二軸で選べばほぼ間違いありません。やりやすいから、手がつけやすいから、という実行性だけで考えると、成功してもあまり効果、インパクトがない戦略に費用と時間をかけてしまうかもしれないし、これがうまくいったらすごいぞ!というインパクトだけで考えると、そりゃあうまくいけばすごいけど、それって年末ジャンボ宝くじ当てるくらいの確率の話でしょ、ということだと、せっかくのアクションが徒労に終わります。ですから、実行性と効果のニ軸でアクションは選ばなくてはなりません。

海外ライセンス経験があまりない、あるいは、まだまだライセンス部隊も小さい研究機関や大学が、海外で通常実施権許諾をめざす、というのは、私は実行性がないように思います。通常実施権とは、言い換えれば非独占ライセンス権の許諾です。特許の所有者、あるいはライセンス権を持つ人が不特定多数の人にライセンス許諾をすることです。この逆は独占ライセンスの許諾。独占ライセンスを許諾すると、明確に自己実施権を留保しておかないと、ライセンス許諾後は特許所有者でさえ、その特許技術は使用できなくなります。

そりゃあライセンシーの裾野が広がって、その分収入源が増えますから、通常実施権はステキです。でも、これからライセンス活動に着手していこう、という場合、最初は独占ライセンス許諾をすることで成功体験をする、資金を得る、という作戦もアリではないかと思います。

通常実施権は独占ライセンス許諾に比べると大変なことがたくさんあります。例えば:

・ ライセンシー以外の人が特許技術を無断で使っていれば、それを止める、あるいはライ センスを受けさせなくてはならない。でないと、ライセンスを受けるメリットがないから、誰もライセンスを受けなくなる(=みんなが無断で使う)。そのため、普段から無断使用がないか、市場に目を光らせておく必要がある。

・ ランニングロヤルティによるライセンス(技術を使った分だけ、ライセンシーが対価を支  払う。たとえば、当該特許技術を使った製品の売値の1%が特許使用料、など)の場合、各ライセンシーから送られるロヤルティ・レポートをチェックし、送金額をチェックするロヤルティ管理が必要。また、長期のライセンスになると、ロヤルティ監査の実施(正しくロヤルティ額が報告されているかの監査)を行う必要もある。

特に大変なのが最初の問題。無断実施に対して目を光らせて、見つけたら催告状で「即刻やめるか、ちゃんとライセンスを取ってください」と要求し、それでも改善されない場合は、訴訟も辞さない、そういうことです。これができないライセンサーから通常実施権許諾を受けましょう、という誠実な人は案外少ないかもしれないです、さみしいけど・・・。

海外、特にアメリカで技術移転をめざすときに、これが日本の大学や研究機関にできるか、というと、まだ疑問が残ります。訴訟はとんでもなく金がかかりますし、労力もかかります。しかも、まだ日本の大学にとって「訴訟を起こす」というのは精神的ハードルも高いのではないでしょうか。〔ご存知の方も多いと思いますが、アメリカの大学はガンガンやります。この間もカリフォルニアの大学が結構な数の企業を特許侵害で訴えてました。)

とすると、独占実施権許諾から始めてみる、というのは良い戦略ではないかと思います。独占実施権にすると、市場側〔ライセンシー側)には、「早い者勝ち」の意識が醸成され、ライセンスを取ることへの緊急性が生まれ、通常実施権の取得よりも魅力が上がります。また、無断使用があれば、独占ライセンシーが無断使用者に対して訴訟を起こせる、としておけば、特許所有者自身が市場に目を光らせなくても「こっちは金はらって使ってんのに、無断で使ってるヤツは許さん!」と、独占ライセンシーが頑張って権利主張してくれます。ライセンシーは一つだけだから、ロヤルティ管理もずっとラクチン。

実際、アメリカの大学でも企業への技術移転については独占ライセンスって多いんですよ。こういうのはあまり日本できっちり情報が共有されていないかもしれません。

こう考えると、少人数のライセンス部隊で海外での通常実施権許諾をめざすより、独占実施権許諾で実績をつくるほうが実行性も効果も高いかもしれません。無理はしない、というのは、ややもすると甘えていい、と誤解されるかもしれませんが、そうではなくて論理的に考えていくと、無理をしちゃうより、もっとステキな方法がみつかるかも!?ということなのだと思います。
by suziefjp | 2009-01-24 05:24 | 知財経営

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